MMT批判の誤解──財政破綻論が見落とす本質
「延命措置」という批判の正体
MMT(現代貨幣理論)に対して、「財政破綻を先延ばしする単なる延命措置だ」と批判する声がある。ある大学教授から筆者自身が向けられた言葉でもある。しかし、その批判の多くは、国債が「借金」ではなく「通貨発行」であるという根本構造を理解していないところから生まれている。家計の借金と政府の国債を同じ土俵で語る限り、この誤解は解けない。MMTの核心はテクニックではなく、現代の通貨制度そのものの写し鏡なのである。
国債と貨幣創造を区別する重要性
国債残高は、政府の債務ではなく通貨供給量を示す数字である。誰かの貯蓄は他の誰かの債務であり、国債は民間預金を生む。これを理解せずに「借金は返すものだ」と語れば、議論は最初から成立しない。固定観念が経済理解の妨げになる典型例といえる。MMTが指摘するのは、政府は自国通貨を発行できる主体であり、家計とは構造がまったく異なるという事実である。
インフレは突然暴走しない
MMT批判の中には、「財政出動でインフレが発生し、その後増税に時間がかかればインフレが止まらなくなる」という主張もある。しかし、この懸念は現実的ではない。仮に財政支出の結果、物価上昇率が3〜4%になり、増税議論に1〜2年かかったとしても、その期間にインフレが数十%へと暴走することはあり得ない。インフレ率は需給バランスに従って動き、企業の内部留保が一斉に市場へ解放されるような極端な事態が起きない限り、急激な物価上昇にはつながらない。
ハイパーインフレが起こる条件は特殊
ハイパーインフレとは、供給能力が一気に失われた時にのみ発生する極めて特殊な現象である。第一次世界大戦後のドイツや、近年のジンバブエでは、戦争や政治的混乱によって工場が破壊され、インフラが機能しなくなった。供給が消えた国では、どれだけ需要調整をしても物価は暴騰する。これらは財政出動とは無関係の外的ショックによる供給崩壊であり、現代日本の環境とは異なる。東南海地震のような甚大災害であれば可能性はあるが、これは貨幣政策とは別次元の事象である。
インフレ対策は国会だけではない
MMT批判では「インフレ抑制には増税しかない」と語られることがある。しかし、財政政策だけが手段ではない。日本には日銀による金融政策という強力な即効性のある調整手段が存在する。日銀政策決定会合での判断は即日実施され、インフレ率を安定させる機能を持つ。増税の国会審議が長引いたとしても、その間に金融政策で物価調整は可能である。インフレを止められないという批判は、制度理解の欠如から生まれたものにすぎない。
