「筋が硬い」を2つに分けて考える
臨床でよく耳にする「筋が硬い」という表現。これには大きく2つの病態が含まれています。
- 筋短縮:筋が物理的に短くなり、縮こまった状態
- 筋攣縮:筋の過緊張が持続している状態
この2つを区別することで、治療戦略が大きく変わります。
筋短縮の特徴
- 筋の圧痛は乏しい
- ストレッチにより改善が見込める
- サルコメアの数が減少しているため、改善には時間がかかる
筋短縮は「構造的な変化」が強いため、即時的な変化は得にくく、長期的な介入が必要です。
筋攣縮の特徴
- 筋に圧痛がある
- リラクセーションが有効
- 自分の意志で収縮や弛緩のコントロールがしにくい
さらに重要なのは、末梢神経障害の関与が報告されている 点です。
つまり、筋攣縮は神経由来の問題が背景にあることが多く、適切な神経アプローチを行うと短時間で改善するケースが少なくありません。
筋攣縮と末梢神経アプローチ
臨床では、筋攣縮の支配神経(末梢神経)に介入することで、筋がその場で緩むことがあります。
代表的な例が ハイドロリリース です。
支配神経に対して生理食塩水を注入することで、
- 神経の滑走性が改善
- 筋攣縮が解消
- 直後に筋出力も回復
といった変化が見られることが報告されています。
筋攣縮改善後の重要なステップ
筋が柔らかくなり、筋出力が上がるのは 攣縮が解消された結果 と考えられます。
しかし、そこで終わってしまっては不十分です。
改善後に必要なプロセス
- 収縮練習
→ 筋を実際に収縮させ、正しい収縮感覚を再獲得させる。 - 徒手療法・運動療法による滑走性の維持
→ 得られた滑走性を保持し、さらに向上させる。 - 全身機能の改善
→ 神経や筋に過剰な負担がかからない動作やアライメントを整える。
これにより、一時的な改善に留まらず、持続的な治療効果と再発予防につながります。
筋攣縮を「末梢神経軸」で考えるメリット
筋攣縮を従来の「筋そのものの問題」として捉えるのではなく、末梢神経を軸に理解する ことで以下の利点があります。
- なぜ筋が硬くなるのかを明確に説明できる
- 改善のスピードや持続性の違いを整理できる
- ハイドロリリース、徒手療法、運動療法を結びつけて理解できる
これまで臨床で「説明が難しい」と感じていた現象も、神経の滑走性や末梢神経の障害という観点を加えることで、言語化しやすくなります。
まとめ
- 筋が硬い状態には 短縮 と 攣縮 がある
- 筋短縮は構造的変化が主体で改善に時間を要する
- 筋攣縮は末梢神経障害が関与し、適切な介入で短時間に改善することが多い
- 改善後は収縮練習や徒手療法で滑走性を維持・強化することが大切
- 末梢神経を軸に考えることで、臨床現象の理解と説明がしやすくなる