「会話はお互いに利益があるものにしよう」──新渡戸稲造『世渡りの道』に学ぶ、“話し上手より聞き上手”の極意
「会話はお互いに利益があるものにしよう」──言葉を“与え合う”という考え方
新渡戸稲造は『世渡りの道』の中で、こう述べています。
「会話をするときには、相手から利益を得るだけではなく、相手にとっても何か利益になることを話したいものだ。」
この言葉には、**「会話とは贈り物の交換である」**という思想が込められています。
私たちはつい、自分が話したいこと・伝えたいことを中心に会話を進めがちです。
しかし、新渡戸はその一歩先を示します。
それは、「自分も楽しみながら、相手にも何かを残す会話をしよう」という考え方です。
会話は「自分のため」だけではない
多くの人が無意識のうちに「話すことで自分を理解してもらう」ことを目的にしています。
しかし、新渡戸は言います。
「会話はお互いに利益あるものにすべきなのだ。」
つまり、相手にも何か価値を感じてもらうことが大切なのです。
ここでいう「利益」とは、お金や損得ではなく、
- 心が温かくなる
- 新しい考えに触れる
- 知識が増える
- 視野が広がる
といった“精神的な豊かさ”を意味しています。
会話は、相手の心に「小さな光」を残す機会なのです。
「会話の目的は、理解し合うことにある」
現代ではSNSやチャットの発達によって、誰もが簡単に意見を発信できるようになりました。
しかし、発信が増えた一方で、「本当の対話」は減っているように感じます。
新渡戸の言葉を現代に置き換えるなら、
「話すよりも、理解しよう。」
ということ。
相手の話をじっくり聞き、自分の経験や考えを重ねながら返す。
そうすることで、言葉が交流し、信頼が育つ会話になります。
会話とは「勝つ」ことではなく、「分かち合う」ことなのです。
会話は“講義”ではなく、“対話”である
新渡戸はまた、こうも言っています。
「もちろん、そうはいっても、会話を講義のように堅苦しくしてしまってもいけない。」
ここでのポイントは、「ためになる話」を意識しすぎて、押しつけがましくならないこと。
会話は知識の披露ではなく、お互いが自然に学び合う場です。
堅苦しい話ではなく、軽やかな会話の中にも、
- 相手を思いやる言葉
- 相手の考えを引き出す質問
- 相手の立場に立った共感
こうした小さな配慮があれば、相手は「この人と話すと心が明るくなる」と感じるのです。
「楽しかった」と「ためになった」が両立する会話を
新渡戸は理想的な会話の形を、次のように表現しています。
「あとになって、『あのときの会話は楽しかったが、それだけでなく自分のためにもなった』と記憶に残るようにしたいものだ。」
これはまさに、“知的で温かい対話”の理想像です。
ただ笑って終わる会話でもなく、堅苦しい議論でもない。
その中に、「楽しさ」と「学び」が共存しているのです。
こうした会話は、後々になっても相手の心に残ります。
そしてその記憶こそが、信頼関係の土台になります。
現代に生かす「新渡戸流・会話の心得」
新渡戸の教えを日常に生かすなら、次の3つの姿勢を意識するとよいでしょう。
- 聞きながら“何を与えられるか”を考える
相手の話を受け止めつつ、少しでも相手の役に立つ言葉を返す。 - 「楽しさ」と「学び」の両立を目指す
ユーモアを忘れずに、前向きな話題を心がける。 - 会話の後に“心地よい余韻”を残す
説教ではなく、温かい印象を残す。それが人間関係を深める秘訣。
この3つを意識するだけで、会話は単なる時間の共有から、お互いを豊かにする対話へと変わります。
まとめ:会話とは、思いやりのかたち
『世渡りの道』に記された新渡戸稲造のこの教えは、今もなお人間関係の本質をついています。
「会話はお互いに利益あるものにすべきなのだ。」
自分のためだけでなく、相手のためにも話す。
聞くだけでなく、心を通わせる。
そんな会話ができる人は、自然と周囲から信頼され、
その人の言葉には温かさと重みが宿ります。
会話とは、知識の交換ではなく、心の贈り物のやり取り。
あなたの一言が、誰かの心を照らす光になるかもしれません。
