変化は「よくも悪くもない」
「物事が変化するのは悪いことではない。同じく、物事が新しい状態にとどまるのもよいことではない」――これはマルクス・アウレリウスが『自省録』に残した言葉です。
私たちは日常の中で、変化を「良い」か「悪い」かで判断しがちです。昇進すれば「良いこと」、病気になれば「悪いこと」といった具合に。しかし、ストア派の哲学はそのラベル付けを疑います。変化そのものは中立的であり、ただ「そうである」にすぎないのです。
変化に対する私たちの思い込み
なぜ人は変化を怖れるのでしょうか。多くの場合、それは「予測できないこと」への不安からです。現状維持は安心感を与えますが、同時に停滞や閉塞感を生むこともあります。逆に、変化を歓迎しすぎると、思い通りにならなかったときに落胆が大きくなります。
ストア派が教えるのは、変化を「よい」や「悪い」と評価する先入観を取り払うことです。それによって、心が不必要に揺さぶられるのを防ぐことができます。
出来事は「意見」ではなく「事実」
マルクス・アウレリウスは出来事を「客観的なもの」として受け止めるよう説きました。実際に「良い」や「悪い」と感じるのは、出来事そのものではなく、私たちが下す評価にすぎません。
たとえば、突然の部署異動。ある人は「キャリアのチャンス」と思うかもしれませんし、別の人は「不運な左遷」と考えるかもしれません。出来事自体は一つでも、解釈次第で全く意味が変わるのです。
よりよい態度:活かすと決める
では、変化とどう向き合えばよいのでしょうか。ストア派が勧めるのは、「どんな出来事も最大限に活用する」と決めることです。
- 抵抗をやめる
まず「起きてしまったこと」を否定しないこと。現実を受け入れることで、前進のエネルギーが生まれます。 - 学びを見つける
好ましくない変化であっても、何かしら成長のきっかけや新しい経験を得られると考える。 - 変化にラベルを貼らない
「良い」「悪い」と即断する代わりに、「今はただの事実」として受け止める習慣を持つ。
日常での実践例
- 仕事で大きなプロジェクトが失敗したとき、「悪いこと」と決めつけず、「新しい改善点を学ぶ機会」と捉える。
- 引っ越しや人事異動のような環境変化を、「不安なこと」ではなく「新しい出会いのチャンス」と見直す。
- 健康面のトラブルを「災難」と片付けず、「生活習慣を見直す契機」と受け止める。
まとめ:変化を中立に捉える強さ
人生は常に変化の連続です。ストア派の哲学は、その変化を「よくも悪くもない」と捉えることで、余計な苦しみを手放し、冷静さを保つ方法を示しています。
変化そのものを恐れるのではなく、「どう活かすか」を考える。この視点を持つだけで、私たちは逆境にもチャンスにも振り回されず、しなやかに人生を歩むことができるでしょう。