私たちの身体は、日常的にさまざまな細菌の侵入にさらされています。その中で、最前線で細菌防御を担っているのが**好中球(neutrophil)**です。好中球は白血球の一種であり、特に細菌感染に対する防御に重要な役割を果たしています。本記事では、好中球の機能と体内動態について整理し、臨床現場での理解に役立つ視点を提供します。
1. 好中球の主な機能
好中球の最大の役割は、体内に侵入した細菌を貪食し、排除することです。細菌を取り込み、その内部で殺菌することにより、感染の拡大を防ぎます。
もし好中球の機能が低下したり、その数が著しく減少した場合、感染症への抵抗力が弱まり、細菌感染症の罹患率や死亡率が上昇することが知られています。臨床現場でも、免疫不全状態や抗がん剤治療による好中球減少(好中球減少症)は、感染管理上の重要なリスク因子として扱われます。
2. 好中球の産生と成熟
好中球は骨髄の造血幹細胞から産生されます。成熟までには複数の段階を経ており、
- 骨髄芽球
- 前骨髄球
- 骨髄球
- 後骨髄球
- 桿状核球
- 分葉核球(成熟好中球)
という流れで7~10日ほどかけて成熟します。成熟した分葉核球は「骨髄プール」に蓄えられ、必要に応じて血流中へ放出されます。
3. 血中と組織における好中球の動態
血中に出た好中球は長く留まることはなく、数時間以内に血管外の組織へ移行します。つまり、好中球は常に「骨髄 → 血流 → 組織」へと移動しながら、体内の防御に従事しているのです。
血中の好中球はさらに二つのプールに分けられます。
- 血流プール:血管内を流れている好中球
- 滞留プール:脾臓・肝臓・肺の毛細血管壁に付着している好中球
両者はほぼ同数存在しており、感染が起こればまず血流プールの好中球が動員されます。それでも不十分な場合、滞留プールが供給源として働きます。
4. 好中球が不足した場合の生体反応
大規模な感染や炎症で好中球が大量に消費されると、骨髄プールの好中球が動員されます。しかし骨髄プールが枯渇すると、骨髄は新たな好中球の産生を亢進します。ただし、産生の増加が実際に反映されるまでには12~24時間かかるため、その間は血流・滞留プールの好中球で対応せざるを得ません。
この「時間差」が臨床的に重要であり、感染が急速に進展する場合には、一時的に好中球不足が顕著になり、患者の全身状態が悪化する可能性があります。
5. 臨床現場での示唆
好中球は通常、血中の数が一定に保たれるよう厳密にコントロールされています。しかし、感染や骨髄抑制などの影響を受けると、このバランスが崩れます。
理学療法士や作業療法士にとっても、**患者の検査データにおける白血球数や分画(桿状核球・分葉核球の割合)**の変化を理解しておくことは、リハビリテーションの安全管理に役立ちます。特に免疫抑制状態の患者では、運動負荷や環境への配慮が欠かせません。
まとめ
好中球は、細菌感染に対抗するための中心的な防御細胞です。
- 細菌を貪食・排除する機能を持ち、感染防御に不可欠
- 骨髄で産生され、成熟後に血流・組織へ移動する
- 血中には血流プールと滞留プールが存在し、必要に応じて動員される
- 大量消費時には骨髄の産生が亢進するが、反映には時間差がある
これらの理解は、感染症の病態把握や患者管理に直結します。臨床で検査値を目にした際には、単なる「数値」ではなく、その背後にある好中球の動態と役割を意識することで、より質の高い判断につながるでしょう。