生理学

左方移動とは?桿状核球と好中球動態からみる感染症の病態理解

細菌感染症の臨床現場で頻繁に使われる言葉のひとつに「左方移動(shift to the left)」があります。これは白血球分画における桿状核球を中心とした幼若好中球の増加を意味し、感染症の病態や好中球の消費状況を推定するうえで重要な所見です。本記事では、左方移動の定義、基準、そして発生メカニズムを整理していきます。


1. 桿状核球とは?

桿状核球は、分葉していないソーセージ状の核を持つ幼若な好中球です。健常人の血中には数%程度しか存在しません。

注意点として、自動血球計数装置では桿状核球と分葉核球を区別できないため、左方移動の評価には目視による白血球分画が必要です。しかし、形態検査は人の手によるため時間を要し、精度管理上の制約もある点は理解しておく必要があります。


2. 左方移動の定義と基準

一般的に、桿状核球が白血球全体の15%以上を占める状態を左方移動と呼びます。

ただし、定義には幅があり、

  • 世界的には「10〜20%以上」
  • 日本では「感度・特異度のバランスが良い15%以上」

が用いられることが多いです。また、桿状核球だけでなく、後骨髄球や骨髄球などの幼若好中球全体を含める場合もあります。

「左から右へ好中球の成熟度を並べたとき、左に位置する未熟細胞が増える」という由来から、幼若好中球の増加を「左方移動」と呼びます。


3. 左方移動が生じるメカニズム

細菌感染症が起こると、まず血中の成熟好中球が感染巣に動員され、細菌を貪食します。

その後の流れは以下のようになります。

  1. 血流プールの分葉核球が動員される
  2. 不足すれば滞留プールの分葉核球が放出される
  3. さらに不足すると、骨髄プールの分葉核球が動員される
  4. それでも足りない場合、骨髄の桿状核球が血中へ放出される
  5. さらに消費が進めば、後骨髄球・骨髄球が登場する

ただし、前骨髄球や骨髄芽球が血中に出現することは通常なく、出現すれば悪性腫瘍など他疾患を疑う必要があります。

つまり、左方移動は「好中球が大量に消費されているサイン」であり、その程度が強いほど感染に対する需要が高まっていることを示します。


4. 左方移動と骨髄産生の関係

左方移動は単なる好中球の消費だけではなく、骨髄における好中球産生の亢進を反映する現象でもあります。

例えば急性貧血では、骨髄が造血を亢進する結果として網赤血球が増加します。これと同様に、桿状核球の増加は「骨髄が好中球の産生を急ピッチで進めている」ことを示しています。

したがって、血中の好中球数が保たれていても、左方移動がみられる場合は、裏側で大量の好中球消費と産生亢進が同時に起こっていると解釈できます。


まとめ

左方移動は、臨床現場で感染症の進展を理解する上で重要な手がかりです。

  • 桿状核球が15%以上で左方移動と定義されることが多い
  • 細菌感染で好中球が大量消費されると、骨髄由来の幼若好中球が血中に動員される
  • 高度な左方移動は、好中球消費が著しく亢進していることを意味する
  • 骨髄産生の亢進も反映しており、網赤血球の増加と同じような指標と捉えられる

リハビリテーション職種においても、白血球分画や左方移動の意味を理解しておくことで、感染症を合併している患者の全身状態をより適切に評価できます。特に免疫能が低下している患者では、検査値の背後にある動態を意識することが、安全なリハビリ提供につながるでしょう。

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taka
理学療法士TAKAが自分の臨床成果を少しでも高めるために、リハビリ・運動学・生理学・物理療法について学んだ内容を発信。合わせて趣味の読書や自己啓発等の内容の学びも自己満で発信するためのブログです。