『採用の新基準』を読む|「スタイルマッチ」で人と組織が幸せになる採用へ
『採用の新基準』を読む:スペックより「価値観」で採る時代へ
「いい人を採っているはずなのに、すぐ辞めてしまう」
「応募は来るけど、内定辞退が多い」
今、多くの人事担当者が抱える悩みだ。
秋山真著『採用の新基準』(アスコム)は、こうした採用の行き詰まりを根本から問い直す一冊だ。
著者が提示するキーワードは、“スタイルマッチ”。
それは、企業と個人の「価値観の一致」を軸に採用を行うという新しい考え方である。
「スタイルマッチ」とは何か?
これまでの採用は、「学歴」「スキル」「印象」といったスペック中心の評価軸が主流だった。
しかし著者は、「人と組織の不幸なミスマッチの多くは、価値観のズレから生じている」と指摘する。
たとえば、
- 「若いうちから成長できる環境」と聞いて入社したが、実際は残業続きで心が折れた
- 「フラットな組織」と聞いていたのに、実際はトップダウン文化だった
こうしたギャップは、「企業が何を大切にしているか」=スタイルを言語化できていないことが原因だ。
スタイルマッチとは、企業と個人が「何を大事にし、どう働きたいか」という価値観をすり合わせる考え方である。
スタイルを構成する4つの視点
著者は、企業のスタイルを4つの視点から整理できると述べる。
- Business(事業のスタイル)
── なぜこの事業をやっているのか? どんな社会的意義を持つのか? - Culture(関係性のスタイル)
── 社員同士の信頼関係、コミュニケーションのあり方。 - Job(仕事のスタイル)
── 成果の出し方や挑戦への姿勢、学びのスタンス。 - Action(行動のスタイル)
── 意思決定や裁量の基準、自律的な働き方の度合い。
たとえば「フルリモートOK」という制度も、
“時間の自由を与える”ことよりも「社員を信頼しているから自由を認める」という価値観の表れとして説明できる。
制度ではなく「なぜそうしているのか」を伝えることが、スタイルマッチ採用の第一歩だ。
「スペック採用」が失敗する理由
多くの企業が採用でつまずくのは、**「スペック依存症」**に陥っているからだ。
求人票には、業界順位・平均年収・待遇・スキル要件などの“条件”ばかりが並ぶ。
しかし、条件は他社と比較可能であり、より良い待遇の企業が現れた瞬間に優秀な人材は流れてしまう。
一方でスタイルマッチ採用は、
「なぜこの事業をやっているのか」「どんな人とどんな空気で働くのか」
という“非代替的な魅力”を伝える。
スペックで人を集めると、「条件が合わなくなれば辞める」関係になるが、
スタイルで共感した人は「この会社だから働きたい」と思う。
これが、離職率の低下にも直結するのだ。
採用に失敗する企業の「7つのワナ」
著者は、採用に苦戦する企業が陥る“ワナ”を分析している。
代表的な4つを紹介しよう。
- スペック依存症
条件で釣る採用。マッチング精度が低く、離職率が上がる。 - 社員不在の採用広報
理念やパーパスばかりが語られ、リアルな社員の姿が見えない。 - 「優秀層」という幻想
誰もが納得する“万能人材”は存在しない。自社に合う人を定義せよ。 - 昭和・平成型のコミュニケーション
求職者はSNS・動画で情報を得る時代。古い手法に固執しては届かない。
これらのワナから抜け出す鍵こそ、「スタイルを明確にし、言語化すること」だ。
「いい採用」を実現する3つのステップ
本書では、スタイルマッチ採用を実現するための3ステップを提示している。
STEP1:自社の現在地を把握する
マーケティングの「3C分析」(Company・Competitor・Customer)を応用し、
「自社」「競合」「ターゲット」を客観的に分析する。
STEP2:自社のスタイルを言語化する
分析結果をもとに、Business・Culture・Job・Actionの4視点でスタイルを整理する。
重要なのは「抽象化しないこと」。
社員のリアルな言葉を使って、“生きた言葉”で語ることが信頼を生む。
STEP3:誰に・何を・どこで・どう伝えるかを決める
自社の独自価値を明確にしたうえで、
ターゲット層に合わせたチャネル(SNS、動画、社員インタビューなど)で発信する。
この一貫性が、採用ブランディングを形成する。
「スタイル」が強い会社は、成長し続ける
本書で紹介される企業の例として、「餃子の王将」が象徴的だ。
「王将の魂“餃子”」「手作り料理」「安心・安全の追求」「おもてなしの心」——。
これらは単なるスローガンではなく、同社の“スタイル”そのもの。
スタイルが明確だからこそ、社員は誇りを持ち、顧客にも一貫した価値を届けられる。
採用とは、単に人を集める活動ではない。
自社のスタイルを社会に伝え、共感する人と出会うプロセスなのだ。
まとめ:採用の目的は「マッチング」ではなく「共創」
『採用の新基準』は、採用活動を「会社に人を入れる」から「共に未来をつくる」へと転換させる。
スタイルマッチを実現すれば、採用はもっと人間的で、もっと創造的な営みになる。
スキルでも肩書でもなく、「価値観でつながる採用」こそが、これからの時代のスタンダードだ。
💡この記事はこんな人におすすめ
- 採用活動の成果が出ず、改善策を探している人事担当者
- 採用ブランディングを強化したい経営者・広報担当者
- 「企業文化×人材採用」に関心のある経営企画・HRBP
