遅発性筋痛モデルとは?
筋性疼痛の研究では、ラットを用いた「遅発性筋痛モデル」が広く利用されています。
- 方法:下腿の長趾伸筋を、電気刺激で足関節を背屈させつつ、外部から強制的に底屈させることで「伸張性収縮」を発生させる
- 結果:伸張性収縮後、1~3日間にわたり 機械痛覚閾値が低下(機械痛覚過敏)
- 特徴:明らかな炎症を伴わないため、非炎症性筋痛モデルとして位置づけられる
このモデルにより、筋痛における「神経成長因子(NGF)」の役割が解明されてきました。
NGFの働きと筋痛への関与
NGF(Nerve Growth Factor)は、発生期には神経突起の伸張や侵害受容器の分化を担う重要因子ですが、成体では 侵害受容の修飾 に関わります。
研究で明らかになったこと:
- 遅発性筋痛モデルのラットに 抗NGF処置 をすると → 筋痛が発生しない
- 無処置のラットに NGFを投与すると → 機械痛覚過敏が生じる
- NGF投与で 筋支配C線維の発火頻度が増加 → 機械感作が亢進
👉 つまり、遅発性筋痛は NGFがC線維を機械感作することで発生 していることが分かります。
筋膜におけるNGFの役割
興味深いことに、胸腰筋膜にNGFを投与した場合:
- ラット・ヒトともに 持続的な機械痛覚過敏 を発症
- 抗NGF抗体の臨床試験では、慢性腰痛が軽減したと報告
👉 胸腰筋膜でのNGF発現が、慢性的な筋筋膜性腰痛の要因のひとつである可能性が示唆されています。
NGFとブラジキニンの関係
さらに、NGFの増加は ブラジキニン依存的 であることも明らかになっています。
- ブラジキニンは末梢血管内皮細胞から放出
- NGF産生を促進し、結果として 筋の機械痛覚過敏を引き起こす
このことから、筋膜性疼痛における末梢因子(ブラジキニン → NGF → C線維感作) という経路が想定されます。
まとめ
- 遅発性筋痛モデルは、非炎症性の筋痛を再現できる研究手法
- NGFがC線維を感作することで筋痛・筋膜性疼痛が発生
- 胸腰筋膜におけるNGF発現は、慢性腰痛の病態に関与している可能性
- NGFの増加は ブラジキニン依存的 であり、血管由来の因子も痛み形成に関与
👉 NGFは単なる発生期の因子ではなく、慢性疼痛の維持因子として重要であることが分かってきています。