「努力すれば報われる」は嘘だった。ニーチェが教える『人間万事塞翁が馬』の真実
「成功したのには、明確な理由がある」 「失敗したのは、あの時あんなことをしたからだ」
私たちは物事を納得するために、すぐに「原因」と「結果」を結びつけようとしていませんか?
「AをしたからBになった」。 この考え方は論理的で正しいように見えますが、哲学者のニーチェは、これこそが**「人間が陥りやすい最大の思い込み」**だと指摘しています。
この記事を読むことで、ニーチェが『曙光』で語った**「因果関係の嘘」**が暴かれます。
そして、答えの出ない「犯人探し(原因探し)」をやめ、予測不能な人生をありのまま受け入れるための柔軟な思考が手に入るでしょう。
今回は、政治家の詭弁や有名な中国の故事を例に、私たちが信じている「因果の鎖」を断ち切る方法を解説します。
結論から言うと、世界は複雑すぎて、「たった一つの原因」なんて特定できるはずがないのです。
「私がやったから成功した」という詐欺
まず、世の中に溢れる「成功の分析」を疑ってみましょう。
政治家はよくこう言います。 「私がこの政策を実行した(原因)から、街が活性化した(結果)」
これを聞くと「なるほど」と思ってしまいますが、ニーチェに言わせればこれは**「詭弁(きべん)」**です。 論理学では「後件肯定のエラー」と呼ばれます。
現実はもっと複雑に絡み合っている
街が活性化したのは、たまたま景気が良かったからかもしれないし、ブームが来たからかもしれないし、あるいは何かの事故がきっかけだったかもしれません。 無数の要因が複雑に絡み合っているのに、「自分の手柄にしたい人」だけが、都合よく原因と結果を一本の線で結びつけるのです。
これはビジネス書や成功法則にも当てはまります。 「これをしたから成功した」というのは、あくまで結果論であり、後付けのストーリーに過ぎません。
「努力=結果」の方程式も成立しない
「時間をかければ良いものができる」というのも、私たちが信じたい因果関係の一つです。 しかし、現実はそう甘くありません。
6時間で書かれた名作
記事の中で紹介されている、作家・野坂昭如氏のエピソードは衝撃的です。 彼の代表作であり、世界中で愛されている小説『火垂るの墓』。 実はこの作品、多忙な中でたった6時間で書かれたといいます。
- 常識的な因果: 長い時間をかける(原因)→ 良い作品ができる(結果)。
- 現実: 短時間で書かれた(原因?)→ 傑作が生まれた(結果)。
もし「時間が短い=手抜き=売れない」という因果が絶対なら、この作品は評価されていないはずです。 「何かをすれば、必ず特定の結果が出る」という法則は、人間の世界には存在しません。
「人間万事塞翁が馬」が教える真理
ニーチェ的な世界観を最もよく表しているのが、中国の故事**「人間万事塞翁が馬(じんかんばんじさいおうがうま)」**です。 ここでいう「人間(ジンカン)」とは、「世間」という意味です。
この物語は、良いこと(福)と悪いこと(禍)が、まるでメリーゴーランドのように入れ替わり続ける様子を描いています。
- 馬が逃げた(不幸) → 老人「福になるかも」
- 馬が駿馬を連れて帰ってきた(幸福) → 老人「災いになるかも」
- 息子が落馬して骨折した(不幸) → 老人「福になるかも」
- 戦争が起きたが、骨折のおかげで息子は徴兵されず助かった(幸福)
「ここが結末」と決めつけるな
近所の人たちは、その時々の出来事だけを見て「不幸だ」「幸福だ」と騒ぎます。 彼らは**「線形的な考え方(単純な因果論)」**しかできていません。
一方、老人は知っていました。 **「この世で起きることは複雑で、何がどう転ぶかなんて誰にもわからない」**ということを。
私たちはつい、「失敗した!もう終わりだ!」と嘆きますが、その失敗が将来の成功の種になるかもしれません。 逆に、「大成功した!」と喜んでいたら、それが転落の始まりになるかもしれません。
原因と結果を勝手に決めつけ、一喜一憂するのは、「まだ途中」の物語に勝手に「完」のマークをつけるようなものなのです。
世界は「実験室」ではない
なぜ、原因と結果は特定できないのでしょうか? それは、この世が物理の実験室ではないからです。
実験室なら、条件を統一して「Aを入れたらBになる」と証明できます。 しかし、現実世界には**「人間」**という、最も不確実で気まぐれな要素が関わっています。
- 人の感情が変わる。
- 誰かの気まぐれが影響する。
- 時代の空気が変わる。
人間が関わる以上、状況はいくらでも変化し続けます。 それなのに、「犯人はこれだ」「勝因はこれだ」と単純化して分かった気になるのは、ただの「思い込み」であり、傲慢な態度なのです。
まとめ・アクションプラン
ニーチェの指摘は、分析好きな現代人の頭をクールダウンさせてくれます。 今回のポイントを整理しましょう。
- 因果は後付け: 「成功の理由」や「失敗の原因」は、誰かが都合よく作ったストーリーに過ぎない。
- 時間は関係ない: 『火垂るの墓』のように、かけた時間と成果が比例しないことはよくある。
- 一喜一憂しない: 「塞翁が馬」のように、今の不幸が幸福に、今の幸福が不幸に繋がっている。
Next Action: もし今、過去の失敗を思い出して「あの時、ああしていれば…」と後悔しているなら、その思考を強制終了させてください。 そして、代わりにこうつぶやきましょう。 「ま、それがどう転ぶかは、神様でもなきゃ分からないけどね」 原因探しをやめて、**「今、目の前にある結果」**だけを見て、次の一手を打つこと。それが複雑な世界を生き抜くための、最も賢い戦略です。
