新渡戸稲造『世渡りの道』に学ぶ——現在の仕事に最善を尽くせ
「真に偉い人」とはどんな人か——新渡戸稲造の仕事観
新渡戸稲造は『世渡りの道』でこう語っています。
「真に偉い人というのは、現在の自分の仕事に全力を尽くす人だ。
しかし、それとともに、余裕をもって仕事をしている人でもある。」
ここで新渡戸が説くのは、「地位や名声にとらわれない真の偉さ」です。
彼にとって“偉い人”とは、どんな仕事にも誇りを持ち、手を抜かず、
しかも心にゆとりをもって働ける人でした。
「今この瞬間」に全力を尽くすことの意味
私たちはつい、「もっと良い仕事がしたい」「いずれは別の職場で活躍したい」と未来を見て焦ってしまいがちです。
けれども新渡戸は、**「未来のために、今の仕事をおろそかにするな」**と教えます。
どんなに小さく見える仕事でも、
いま与えられた場所で最善を尽くすことが、
次の道を自然に開いていくのです。
つまり、「現在の仕事に最善を尽くすこと」は、
単なる勤勉のすすめではなく、人生の誠実さそのものを意味しています。
「小さな仕事」を軽んじるな
新渡戸は続けます。
「いかに小さく、いかにつまらない仕事であっても、それを完全に成し遂げ、この人がいなくてはできない、この人がいなくては困ると言われるものだ。」
ここにあるのは、仕事の大小で価値を測らない精神です。
社会のどんな仕事も、誰かの暮らしを支える一部であり、
「つまらない仕事」など存在しません。
その仕事を丁寧に行うことで、周囲からの信頼が生まれ、
やがて「あの人でなければ」と言われる存在になる。
それが、新渡戸の考える**“真の成功者”**の姿なのです。
「余裕をもって働く」とはどういうことか
新渡戸は「全力を尽くす」ことと同時に、「余裕をもって働く」ことの大切さも強調します。
それは、焦りや不満に追われず、落ち着いた心で仕事に向き合う姿勢です。
全力を尽くすとは、がむしゃらに働くことではありません。
- 丁寧に考え、
- 冷静に判断し、
- 他人への気配りを忘れない。
そうした“ゆとりある全力”こそが、成熟した働き方だと新渡戸は説いています。
現代社会における「最善を尽くす」意味
現代では、スピードや成果が強く求められるあまり、
「今の仕事に意味を見いだせない」と感じる人も少なくありません。
しかし、新渡戸の教えはこう語りかけます。
「仕事の価値を決めるのは“内容”ではなく、“その人の取り組み方”である。」
たとえ地味な作業でも、そこに誠実さと責任感があれば、
それは立派な人生の修養になります。
つまり、“どんな仕事をするか”ではなく、
“どう働くか”がその人の品格を決めるのです。
「いなくては困る人」になるために
新渡戸の言う「この人がいなくては困る人」とは、
突出した能力を持つ人ではなく、信頼される人です。
- 約束を守る
- 丁寧に仕事を仕上げる
- 周囲に気を配る
- 感謝を忘れない
こうした基本的な姿勢を積み重ねた人が、
最終的に「いなければ困る人」になるのです。
これは『世渡りの道』の他の章——
「いなければ困る人になれ」や「真に惜しまれたければ人格を磨け」とも
深く通じています。
まとめ:小さな仕事を誠実に——それが「人生を磨く道」
新渡戸稲造のこの一節は、
仕事の価値を“外の評価”ではなく“内なる誠実さ”で測るように促しています。
「真に偉い人とは、現在の自分の仕事に全力を尽くす人である。」
偉さとは地位や名声ではなく、
日々の仕事に心を込める人の姿勢に宿るもの。
小さな仕事ほど丁寧に。
どんな仕事でも誇りをもって。
その積み重ねが、やがて人生を光らせていくのです。
