新渡戸稲造『自警録』に学ぶ——名誉や利益は「求めずして得る」もの
名誉や利益は「自然に与えられるもの」——新渡戸稲造の成功哲学
新渡戸稲造は『自警録』の中でこう述べています。
「名誉や利益そのものが悪いとは思っていない。もしそれが自分からガツガツと求めたものではなく、自然なかたちで来たものであるならば、決してそれを拒む必要はない。」
現代社会では、名誉や利益を得ることが「成功」の象徴とされがちです。
しかし、新渡戸はそれらを否定するのではなく、“求め方”にこそ問題があると説いています。
「欲する心」が、人を不幸にする
名誉や利益を得ようとすること自体は自然な欲求です。
けれども、それを**「他人を押しのけてでも手に入れよう」**とした瞬間、心の平安が失われていきます。
新渡戸は次のように警告します。
「名誉や利益には、他人を傷つけたりして自ら求めていくものと、天から降ってくる露のように自然に与えられるものとがある。」
つまり、
- 争いや不正によって得たものは、やがて自分を蝕む「重荷」になり、
- 自然に与えられたものだけが、真の満足をもたらす「恵み」になる。
この「露のように与えられる」感覚こそが、新渡戸の思想の核心です。
それは偶然の幸運ではなく、「誠実に生きた結果として、静かに訪れる報い」なのです。
正しさを貫くことが、最良の道
新渡戸は続けてこう語ります。
「自分が正しいと信じることさえ行っていれば、名誉や利益が来ようが来まいが何も気にする必要はないのだ。」
この言葉には、**「結果にとらわれない生き方」**という深い教訓が込められています。
社会では「結果がすべて」と言われることもありますが、
新渡戸は「過程の誠実さこそが人の価値を決める」と信じていました。
自らの信念に従い、他人を傷つけずに努力を続ける。
そのような人には、名誉や利益は後から「自然と」ついてくるのです。
現代社会の「功名主義」への警鐘
現代は、SNSで誰もが自分を発信し、評価を可視化できる時代。
「いいね」の数やフォロワー数が、名誉や価値の代わりになってしまうこともあります。
そんな中で、新渡戸のこの教えは非常に現代的です。
彼の言葉は、**“評価を追いかけるより、誠実を積み重ねよ”**というメッセージでもあります。
名誉や利益を「目的」にすると心が疲弊します。
しかし、それらを「結果」として受け取る姿勢を持てば、人生は静かに豊かになります。
「求めずして得る」——東洋的な成功観
新渡戸の思想は、儒教の「名を求めず、義を重んず」とも、
禅の「無求(もとめざる)」の精神とも通じています。
彼は西洋のキリスト教的倫理と、日本の精神文化を融合させ、
「静かな成功」——つまり、外に誇らず、内に誠を持つ成功を理想としました。
それは、現代で言えば「サステナブル(持続可能)」な成功。
短期的な利益ではなく、長く続く信頼と心の安定を築く生き方です。
まとめ:名誉も利益も、「結果」であって「目的」ではない
新渡戸稲造が『自警録』で伝えたかったのは、
**「名誉や利益を否定する」のではなく、「それを追い求める心を静めよ」**ということです。
名誉や利益は、求めて得るものではなく、
誠実に生きた結果として、自然に訪れるものである。
努力すること自体を目的とし、
その過程に誠実さを保ち続ける。
それが新渡戸の考える“真の成功者”の姿なのです。
