「自分ひとりで自分を作り上げた人など存在しない」—新渡戸稲造『人生読本』に学ぶ、真の「セルフメイド」とは
「セルフメイド」という幻想
現代では、「セルフメイド(Self-made)」という言葉をよく耳にします。
“自分の力で道を切り開いた人”“ゼロから成功した人”といった意味で使われ、ビジネス界やSNSでもよく称賛される概念です。
しかし、新渡戸稲造は『人生読本』の中でこう断言します。
「英語でいう『セルフ・メイド・メン』、すなわち『自分ひとりで自分を作り上げた人』など、世界のどこにもいないのだ。」
この言葉は、個人の努力を否定するものではありません。
むしろ、「どんな成功も、他者や社会の支えがあってこそ成り立つ」という、成熟した自立のあり方を教えてくれています。
人は一人では成長できない
新渡戸は続けてこう述べています。
「自己の成長とは、社会の中にあって、国家の保護を受け、社会の好意を受け、親兄弟や姉妹、妻子の温かい愛情を受けてはじめて実現できるものだ。」
人は、他人との関係の中でしか成長できません。
親の愛情、友人の支え、教育の機会、社会制度、国家の安定――
これらが一つでも欠けていれば、私たちの「努力」そのものが成立しないのです。
「自分の努力でここまで来た」と思う人も、
見えないところで多くの人の手が差し伸べられていることを忘れてはいけません。
「支えられている」という気づきが、人を謙虚にする
自分の力を信じることは大切ですが、
「支えられてきた」という自覚を持つことは、もっと大切です。
なぜなら、それが人を謙虚にし、他人への思いやりを生むからです。
私たちは、親の愛情だけでなく、
教えてくれた先生、励ましてくれた友人、失敗を見守ってくれた上司――
数えきれない人たちに育てられています。
この「関係の中で育つ自分」を理解したとき、
人は他人に対して優しくなり、感謝の心が自然と湧いてきます。
本当の「セルフメイド」とは、自分の努力+他者への感謝
新渡戸が否定したのは、「孤立した成功者」という幻想です。
彼が本当に伝えたかったのは、**「他者の支えを自覚したうえで、自ら努力すること」**の尊さです。
つまり、真のセルフメイドとは――
「自分の力を磨きながら、支えてくれた人々への感謝を忘れない生き方」
それは、自分の成功を独り占めするのではなく、
「ここまで来られたのはおかげさま」と素直に言える人の生き方です。
新渡戸稲造が理想としたのは、孤高の天才ではなく、感謝を知る人格者でした。
社会の中で成長するということ
『人生読本』で新渡戸が説いたのは、「自己」と「社会」の関係性です。
人は社会の一員として、他人の支えを受けながら自己を作り上げていきます。
だからこそ、
- 社会に恩返しをする
- 周囲の人を助ける
- 自分の知識や経験を分かち合う
といった行動が、「成長の完成形」と言えるのです。
彼の言葉には、自己成長=社会への貢献という一貫した哲学が流れています。
「孤独な成功」より、「支え合う成功」を目指そう
現代では、「自分の力だけで成し遂げた」という物語がもてはやされがちです。
けれども、それは現実的ではありませんし、心も満たされません。
本当の成功とは、
- 支えてくれた人たちと喜びを分かち合えること
- その喜びを、次の誰かに返していけること
その循環こそが、新渡戸稲造のいう「人生の成熟」なのです。
まとめ:感謝こそ、最高のセルフメイド
新渡戸稲造の『人生読本』が教えてくれるのは、
「自立とは、他者とのつながりを自覚すること」だという真理です。
- 成功は決して自分ひとりの力ではない
- 人の支えを受けてこそ、自己の成長は実現する
- 感謝を忘れない人が、本当に“自分を作り上げた人”になる
「自分だけで頑張らなければ」と思い詰めている人ほど、
この言葉を思い出してみてください。
あなたの努力の裏には、必ず誰かの支えがある。
それに気づけたとき、心はもっと穏やかに、もっと強くなれるはずです。
