国債とハイパーインフレ──恐怖の正体を静かに解きほぐす
国債と金利上昇は結びつかない
国債を発行すれば、金利が急上昇し、ハイパーインフレを招くのではないか──この懸念は日本で根強い。しかし、結論から言えば、国債発行そのものが金利上昇を引き起こすことはない。日本は自国通貨を発行できる国家であり、財政破綻のリスクが構造的に存在しない。ゆえに、政府債務残高が増えたとしても円の信用が失われるわけではなく、金利が暴騰する理由もないのである。
インフレは制御できる現象である
ハイパーインフレを恐れる声はしばしば聞かれるが、インフレそのものは恐れる対象ではない。むしろ、日本が今必要としているのはデフレからの脱却であり、適度なインフレの実現である。インフレとは供給よりも需要が大きい状態であり、財政支出を通じて需要を高めれば、デフレから正常なインフレへと自然に移行する。重要なのは、インフレ率を見ながら適切に財政支出を調整することであり、急激なインフレは政策判断によって避けられる。
日本はすでに“インフレ抑制策”を経験済み
日本は過去、消費税増税を繰り返す中でデフレから抜け出せなくなった。これは、消費税という仕組みが需要を抑制し、物価上昇を強く抑え込む効果を持っていたことを意味する。つまり、日本は「インフレ抑制策」の実例をすでに持っているということだ。インフレがやや強まりすぎたとしても、消費税ほど強力な抑制策がすでに存在しているのだから、政策的に制御できる範囲なのである。
所得税中心の税制が安定を生む
仮にインフレが想定以上に進んだとしても、その抑制策は明確である。消費税重視の税体系から、所得税重視の体系へと移行することだ。所得税には累進課税という特徴があり、収入が増えるほど高い税率が適用される。これが個人消費を自然に抑制し、インフレを静かに収める作用を持つ。この自動安定装置は「ビルトインスタビライザー」と呼ばれ、税制そのものが景気の過熱を和らげる仕組みとなる。一方、消費税は誰にとっても一定の税率であるため、インフレ抑制効果が弱い。
国債発行は恐れる対象ではない
国債発行は、金利の暴騰も、通貨の崩壊も引き起こさない。むしろデフレから正常な経済に戻すための道具であり、政策の加減を誤らなければ極めて安定的に使える。恐れるべきは国債そのものではなく、需要が足りずに経済が縮小し続ける現状である。インフレ率を注視しながら財政支出を調整し、必要に応じて税制を見直す──それだけで過度なインフレは十分に抑制できる。日本経済の安定に必要なのは、恐怖ではなく構造理解に基づいた冷静な判断である。
