痛みを3つに大別する意義
臨床において「痛みの原因をどこまで明確にできるか」は、治療の成否を左右する重要なポイントです。原因を正しく捉えることができれば、治療方針や運動療法の方向性も自ずと定まり、効率的に症状改善へと導くことが可能になります。
そのため、私は日常の臨床で「この痛みはどのようなメカニズムから生じているのか?」を常に考えながら評価・治療を行っています。
痛みは大きく以下の 3つのタイプ に分類されます。
1. 侵害受容性疼痛
特徴
- 炎症や損傷など、構造的な異常が原因
- 画像検査に反映されやすい
- 外傷や関節炎、骨折後などでよく見られる
臨床的には「組織の修復過程に伴う一時的な痛み」であることも多く、安静や適切な運動療法により改善が見込めます。
2. 神経障害性疼痛
特徴
- 末梢神経や中枢神経の障害に関連
- 画像検査では捉えにくい
- しびれや感覚鈍麻を伴うことが多い
腰椎椎間板ヘルニアに伴う坐骨神経痛、糖尿病性神経障害などが典型例です。診断には画像だけでなく、身体診察や感覚検査 が欠かせません。
3. 痛覚変調性疼痛
特徴
- 脳や脊髄における痛覚処理の異常が関与
- 客観的な検査で捉えにくい
- 慢性疼痛や線維筋痛症などでしばしば認められる
心理社会的要因も影響しやすいため、単に局所のアプローチだけでは改善が難しく、全人的なリハビリテーション が求められます。
実際の臨床では「混在」が多い
理論上は3つに分類できるものの、実際の患者さんではそれらが複合しているケースが大半です。
例えば、
- 侵害受容性 10%
- 神経障害性 70%
- 痛覚変調性 20%
といったように、割合で混在することも珍しくありません。そのため「どの要素が強く影響しているか」を推定することが、治療戦略を立てるうえで重要です。
なぜ「原因の特定」が重要なのか
運動器診療では、しばしば画像所見を重視して痛みの原因を判断しがちです。しかし実際には、画像で確認できるのは侵害受容性疼痛の一部にすぎません。
神経障害性や痛覚変調性の痛みは 「画像には映らない痛み」 であり、ここを見逃すと治療が長期化したり、効果が乏しくなったりすることがあります。
だからこそ、理学療法士としては以下のプロセスが欠かせません。
- 痛みの種類を推定する
- 仮説に基づいて治療を行い、効果を検証する
- 原因を明確化したうえで、局所機能改善+全身機能改善へ進める
この流れを踏むことで、患者さんにとって無駄のないリハビリを提供できるのです。
まとめ
- 痛みは「侵害受容性」「神経障害性」「痛覚変調性」の3つに分類できる
- 実際は複数要素が混在することが多い
- 画像検査に映らない痛みを捉えるには、身体診察と仮説検証が重要
- 原因を特定したうえで治療を進めることで、効率的な改善と再発予防が可能
理学療法士や作業療法士が臨床で患者さんと向き合う際、この「痛みの3分類」を常に意識して評価を行うことが、効果的な治療へとつながります。