『借金問題は解決済み?名目GDP成長とインフレがもたらす皮肉な真実』
借金問題の「コペルニクス的転回」
日本の財政を語る上で、長らく常識とされてきた「国の借金問題」。政府債務対GDP比率の上昇を憂う声は絶えない。しかし、ここには大きな誤解がある。 この比率は、分母である「名目GDPの成長率」が、分子に関わる「国債金利」を上回れば、自然と低下していく性質を持つ。そして重要なのは、政府と日銀が連携すれば、この両方をコントロール可能であるという事実だ。 これはまさに、天動説が地動説へと変わったような、認識の大転換と言える。信用貨幣論の視点に立てば、自国通貨建ての国債を発行できる国家において、財政破綻という概念そのものが成立しないことが見えてくる。我々は今、その認識の転換点に立っているのである。
インフレがもたらした意図せぬ「財政健全化」
直近の日本経済を見ると、政府債務対GDP比率は低下傾向にある。これは皮肉にも、コロナ禍以降のインフレによってもたらされた現象だ。 もちろん、現在のインフレは需要が爆発的に増えたことによる「良いインフレ」ではない。供給制約によるコストプッシュ型、いわゆるインフレギャップが生じている状態だ。しかし、理由はどうあれ物価が上昇すれば、名目GDPという「金額の塊」は膨張する。 GDPデフレーターが3%、5%とプラス圏で推移している現状は、日本が数値上、長年のデフレから脱却したことを示している。分母であるGDPが勝手に膨らむ以上、借金の比率は自動的に縮小していく。財務省が血眼になって目指していた財政健全化は、増税や歳出削減ではなく、皮肉にも彼らが恐れていたインフレによって達成されつつあるのだ。
プライマリーバランス黒字化の罪と罰
振り返れば、なぜ日本は「プライマリーバランス(PB)の黒字化」という目標にこれほど執着してきたのか。それは、政府債務対GDP比率を下げるための手段に過ぎなかったはずだ。 しかし、手段が目的化した結果、政府は緊縮財政を続け、経済を冷え込ませてしまった。その結果、名目GDPは成長せず、逆にデフレを深刻化させ、借金比率を高めるという本末転倒な事態を招いていたのである。 「デフレこそが諸悪の根源であり、需要不足が最大の問題だった」という認識が欠けていた代償はあまりに大きい。失われた30年の正体は、このボタンの掛け違いにあったと言えるだろう。
新たな経済フェーズへの視点
今後、GDPデフレーターがプラスを維持する限り、名目GDPは成長を続ける。そうなれば、財政的な制約、いわゆる「財源がない」という言い訳は通用しなくなる。 これまでの「財政が悪化しているから緊縮する」というロジックは崩れ去り、むしろ「財政状況が改善しているのだから、積極的な投資が可能だ」という局面に突入するからだ。 意図せぬ形でデフレ脱却と財政改善が果たされた今、我々に求められているのは、過去のドグマを捨て去り、正しい貨幣観を持って次なる経済成長への舵を切ることである。財務省や政治家がこの事実にいつ向き合い、方針転換できるか。それが今後の日本の命運を握っている。
