政策金利0.75%への引き上げが日本経済にもたらす矛盾と本質
政策金利引き上げの衝撃
日本銀行が政策金利を0.75%に引き上げた。このニュースは速報として流れたが、その本質を正しく理解している人はどれほどいるだろうか。政策金利とは、専門的には「無担保コール翌日物金利」と呼ばれるものである。一見、我々の生活とは無縁の専門用語のように響くかもしれない。しかし、この数値の変動は、巡り巡って企業の活動、そして我々の家計に直接的な影響を及ぼす極めて重要なシグナルであるといえる。まずは、この金利が持つ本来の意味を紐解いていく必要がある。
銀行間取引と金利のメカニズム
そもそも「無担保コール翌日物金利」とは何なのか。これを理解するには、銀行の裏側で行われている資金の動きを知る必要がある。私たちが日々の支払いや送金を行う際、銀行の内部では預金という形の負債が増減している。ある銀行の負債が減り、別の銀行の負債が増える。一日の終わりには、これらの過不足を清算しなければならない。
その際、手元の資金が不足している銀行は、「一晩だけ貸してくれ」と他の金融機関から日銀当座預金を借りることになる。この時に発生する金利こそが、無担保コール翌日物金利である。日本銀行はこの金利をコントロールすることで、市場全体の金利水準を操作している。そして今回、その水準が引き上げられたのである。
企業活動へのブレーキと副作用
政策金利の上昇は、ドミノ倒しのように経済全体へ波及する。まず影響を受けるのが「短期プライムレート」だ。これは銀行が優良企業に対して短期資金を貸し出す際の基準金利であり、ここが上がれば、一般企業の借入コストはもちろん、住宅ローンの変動金利なども上昇することになる。
端的に言えば、企業がお金を借りにくくなるということだ。資金調達のコストが上がれば、企業は新規の事業や設備投資に二の足を踏むことになる。景気が過熱している時であれば、このブレーキは有効に機能するだろう。しかし、現在の日本経済が置かれている状況において、このブレーキは果たして正しい選択なのだろうか。
インフレの真因と誤った処方箋
今回の利上げによって、短期プライムレートは2%近辺まで上昇すると予測される。一般的には「利上げは物価を抑える」と言われるが、現状はそう単純ではない。現在の物価上昇を「円安のせい」や「輸入物価の高騰」と捉えるのは、データに基づかない誤解であるといわざるを得ない。実際、輸入物価は横ばいで推移しているからだ。
今の物価高の正体は、需要に対して供給能力が追いついていない「サプライロス型インフレ」である。これを解決する唯一の方法は、企業が設備投資を行い、供給能力を底上げすることだ。供給が増えれば、インフレギャップは埋まり、物価は安定する。しかし、日銀が行ったのは「設備投資のための資金を借りにくくする」政策であった。これは、病の治療に必要な薬を取り上げる行為に等しい。
経済リテラシーが未来を変える
本来であれば、供給能力を強化するために金融緩和を継続し、企業の投資を促すべき局面であった。しかし、現実は逆方向へと動いた。この背景には、円安や為替レートばかりに目を奪われ、経済の基礎的条件である需給バランスを見落としている世論や報道の姿が見え隠れする。
「円キャリー取引」や「為替介入」といった表面的な言葉に踊らされず、データに基づいて経済の本質を見抜く目が、今ほど求められている時はない。国民一人ひとりが正しい経済知識を持たなければ、政策は容易に歪められてしまう。今回の利上げがもたらす矛盾を直視し、我々は何を学ぶべきか。それは、感情や雰囲気に流されない、冷徹な知性であるといえるだろう。
