膝のお皿が「下がる」ってどういうこと?
膝蓋低位、英語で patella baja や patella infera と呼ばれる病気をご存じでしょうか。
これは、膝のお皿(膝蓋骨)が本来の位置よりも低くなってしまう状態を指します。お皿の位置が下がると、膝の動きや力の伝わり方が変わってしまい、膝の前側の痛みや動かしにくさを引き起こすのです。
膝蓋低位は先天的に起こる場合もありますが、多くは後天的に発症します。特に膝の手術後(人工関節置換術や前十字靭帯再建術など)に見られることが多く、その他には外傷、長期のギプス固定、慢性的な炎症なども原因になります。
膝蓋低位で起こる症状
膝蓋低位になると、以下のような症状が現れます。
- 膝の前側の慢性的な痛み(特に階段昇降や長時間の歩行時)
- 膝の動きが硬くなる(伸ばしにくい・曲げにくい)
- 太ももの筋肉(大腿四頭筋)の力が入りにくくなる
- 膝に違和感が続き、スポーツや日常生活に支障が出る
これは、膝のお皿が下がることで「テコの働き」が悪くなり、太ももの筋肉の力を効率よく膝に伝えられなくなるためです。その結果、膝関節の一部に過度な負担がかかり、痛みや炎症が起こりやすくなるのです。
実際の症例:40歳女性のケース
ある40歳の女性は、1年前に階段を下りているときに膝をひねるような小さなケガをしました。大きな手術歴はなく、当初は湿布や薬で対応していましたが、膝の前側の痛みは次第に悪化し、日常生活に支障をきたすようになりました。
病院で検査を受けたところ、膝のお皿が通常よりも低い位置にあることが判明。さらにMRI検査で、膝蓋腱(お皿を支えるスジ)が短く厚くなっており、軟骨の初期変性も見られました。
幸い早期だったため、手術ではなくリハビリ中心の保存療法を選択。太ももの筋肉を強化し、柔軟性を高める運動療法と、膝への負担を減らす装具療法が行われました。3か月後には痛みが軽減し、日常生活での動きも改善しました。
膝蓋低位の診断方法
膝蓋低位は、レントゲンでお皿の位置を数値化して診断されます。よく使われるのが「インサル・サルバティ比(Insall-Salvati ratio)」で、通常は 0.8以上 が正常範囲ですが、膝蓋低位では 0.5~0.7程度 に低下します。
さらにMRIやCTを使うと、膝蓋腱の状態や軟骨のダメージまで詳しく評価できるため、より正確な診断が可能です。
治療とリハビリの考え方
膝蓋低位の治療は、症状の程度や進行度によって変わります。
保存療法(初期・軽度の場合)
- リハビリ:大腿四頭筋の筋力強化、ハムストリングの柔軟性改善
- 装具療法:膝の負担を軽減するサポーターやブレース
- 生活指導:過度な階段昇降や長時間の膝への負担を避ける
手術療法(重度・保存療法が効かない場合)
- 脛骨粗面移動術(tibial tubercle osteotomy)
- 膝蓋腱延長術(patellar tendon lengthening)
ただし、手術はあくまで最終手段であり、多くの患者さんは保存療法で一定の改善が得られると報告されています。
まとめ
膝蓋低位(パテラバハ)は、膝のお皿が通常より低くなることで膝に余計な負担をかけ、痛みや動きの悪さを引き起こす病気です。
- 膝の前側の慢性痛や階段昇降のつらさがある人は要注意
- レントゲンやMRIで診断でき、リハビリや装具で改善可能
- 手術は重度の場合に検討されるが、多くは保存療法で対応可能
👉 膝の前側の痛みが長引く方は「軟骨」だけでなく「膝蓋骨の位置」にも目を向けてみると、原因解明につながるかもしれません。