リハビリ関連

膝蓋骨切除が大腿四頭筋の力学に与える影響:Wendtら(1985)の研究を解説

taka

膝関節の動作を支えるうえで、大腿四頭筋と膝蓋骨の関係は非常に重要です。臨床の現場では、膝蓋骨骨折や慢性疼痛への対応として**膝蓋骨切除術(patellectomy)**が行われることもありますが、その後に筋力低下や可動域制限が生じやすいことが知られています。今回は、WendtとJohnson(1985)が行ったクラシカルな実験研究をもとに、膝蓋骨が大腿四頭筋の力学特性にどのような影響を与えるのかを整理します。


■ 研究の概要

この研究では、10体の献体膝を用いて、一定の大腿四頭筋張力を加えた状態で膝を屈曲させ、筋の動き(エクスカーション)と脛骨トルクを測定しました。まず正常な膝で基準値を求め、その後、膝蓋骨を切除(patellectomy)した状態で同様の測定を行っています。


■ 正常膝における結果

0°から90°までの膝屈曲で、大腿四頭筋の平均エクスカーション(筋の移動量)は約66.2mmでした。
角度ごとの変化をみると、

  • 30〜40°屈曲で最大の筋移動(約9.5mm)
  • 80〜90°屈曲で最小の移動(約5.4mm)

この結果は、大腿四頭筋の伸張・短縮が角度依存的であることを示しています。さらに、10°ごとの筋移動と脛骨トルクの関係を調べると、**相関係数r = 0.94(p < 0.001)**と非常に高い一致が見られ、筋の移動量と発揮トルクには強い相関があることが示されました。


■ 膝蓋骨切除後の変化

膝蓋骨を除去すると、大腿四頭筋の総エクスカーションは66.2mm → 51.3mmへと約23%減少しました。
また、膝伸展トルクは0〜40°の範囲で約40%減少しており、特に伸展初期で顕著な力の低下が確認されています。

この結果は、膝蓋骨が「てこの支点(力のモーメントアーム)」として働くことで、大腿四頭筋がより効率的にトルクを発揮できることを裏付けています。つまり、膝蓋骨を失うと、筋が短縮方向に動く距離が減少し、張力を力学的に有利に伝達できなくなるのです。


■ 臨床的示唆

この研究から、膝蓋骨の存在は単なる保護構造ではなく、力の伝達効率を高める重要な機構であることが明確です。理学療法の観点では、以下の点が臨床応用につながります。

  1. 膝蓋骨切除後の筋力トレーニングでは、伸展初期角度(0〜40°)の補強が重要
  2. モーメントアームを補うため、可動域と筋長のバランスを意識した運動療法が必要
  3. 膝蓋骨障害(PFPSなど)の保存療法でも、膝蓋骨の滑走性を保つことが機能維持につながる

膝蓋骨の存在は、単なる「骨の一部」ではなく、大腿四頭筋の効率的な収縮・トルク発揮のための「生体てこ装置」としての意味を持っています。


■ まとめ

Wendtら(1985)の研究は、

  • 大腿四頭筋のエクスカーションとトルクが強く相関していること
  • 膝蓋骨切除により、筋移動量とトルクが顕著に低下すること
    を明確に示しました。

これは、膝蓋骨が伸展機構において「力学的に不可欠な存在」であることを定量的に証明した初期の研究として、今なお臨床的価値が高い報告です。

膝蓋骨疾患の評価や術後リハビリに携わる際には、このような基礎的知見を念頭に置き、筋力・可動域・アライメントの総合的なマネジメントを意識することが大切です。

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ABOUT ME
TAKA
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理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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