リハビリ関連

骨盤底筋群の構造と機能を徹底解説|呼吸・姿勢・臨床との関係とは

taka

骨盤底の役割とは?

骨盤底(pelvic floor)は、骨盤の最下層に位置し、内臓・筋肉・体液の圧力バランスを保ちながら臓器を支える重要な構造です。
上は恥骨と仙骨岬角を結ぶ線、下は坐骨結節と尾骨を結ぶ線で囲まれ、骨盤腔と会陰を分ける境界を形成しています。

解剖学的には、骨盤底は以下の4区画に分けられます:

  1. 前方区(尿路系):膀胱・尿道
  2. 中間区(生殖器系):女性は子宮と膣、男性は前立腺
  3. 後方区(消化管系):直腸・肛門
  4. 腹膜区(筋膜系):骨盤筋膜・会陰膜

このように、骨盤底は排尿・排便・性機能・姿勢など多様な機能を担っています。


骨盤底筋の構造と呼吸・姿勢への関与

骨盤底筋群は**恥骨尾骨筋・腸骨尾骨筋・坐骨尾骨筋などで構成される「骨盤隔膜」**と、**その下に位置する尿生殖隔膜(会陰深筋膜)**からなります。これらの筋群が協調して働くことで、内臓を支え、腹圧変化に対応します。

■ 呼吸との連動

骨盤底は安静時に「お椀型」をしており、収縮時に前上方(恥骨方向)へ上昇し、弛緩時に後下方(仙骨方向)へ下降します。
吸気では横隔膜が下降するため、骨盤底はわずかに下がり、呼気では反対に上昇します。つまり、呼吸運動と骨盤底の動きは連動しており、呼吸機能に直接関与しているのです。

■ 姿勢制御への関与

骨盤底筋は横隔膜・腹横筋・多裂筋とともに**体幹安定化ユニット(いわゆる“インナーユニット”)**を形成します。
立位・歩行・くしゃみ・咳など、腹圧が変化する動作時にはこれらの筋群が協調的に収縮し、骨盤内圧を適切に調整します。
また、骨盤底筋は大臀筋・内閉鎖筋・梨状筋などとも筋膜的につながっており、下肢や体幹の動きにも影響します。


血流と神経支配

主な血流は内陰部動脈(internal pudendal artery)から供給され、同名の静脈系が還流します。リンパは内腸骨リンパ節および鼠径リンパ節に流入します。

神経支配は複雑で、自律神経(骨盤内臓神経・下腹神経)と体性神経(陰部神経)が関与します。陰部神経(S2〜S4)は随意的な骨盤底収縮を司り、排泄や性機能に重要です。一方で、呼吸や姿勢変化に伴う自動的な反応は脳幹や皮質下レベルで制御されています。


臨床的意義:骨盤底筋機能障害とその影響

骨盤底筋の機能低下や電気的異常は、多くの疾患の原因になります。代表的なものを以下にまとめます。

■ 尿失禁(Stress Urinary Incontinence)

咳・くしゃみなどで腹圧が上がった際に尿が漏れる状態。30〜50代女性の約4人に1人にみられます。
骨盤底筋の筋力低下や協調不全、姿勢不良(特に腰椎後弯や骨盤後傾)が原因となります。

■ 骨盤臓器脱

出産や加齢に伴う支持組織の緩みで、膀胱・子宮・直腸が下降します。便秘や排尿困難、腰痛の原因にもなります。

■ 慢性骨盤痛症候群

骨盤周囲の筋膜・筋の過緊張やトリガーポイント形成により、下腹部や会陰部に痛みが生じる状態。
特に内閉鎖筋・梨状筋・大臀筋との連動障害が関与しており、疼痛が腰部や下肢へ放散することもあります。

■ 便秘

骨盤底の協調不全により、排便時に筋が過剰に収縮(パラドキシカル収縮)して便が排出されにくくなることがあります。


評価と治療への応用

臨床では、以下のような評価方法が用いられます。

  • 視診・触診:会陰部の動きや筋収縮の有無を確認
  • 筋力評価(Chiararelliスケール):0〜5段階で収縮力を測定
  • Q-tipテスト:膣内や直腸内の圧痛点・トリガーポイントの探索
  • 筋電図(EMG)やMRI:筋活動や動態の可視化

治療では、骨盤底筋トレーニング(PFMT)呼吸運動との連動訓練筋膜リリースなどが有効です。特に理学療法士は、姿勢制御や呼吸リズムと骨盤底の協調性を再構築する視点が求められます。


まとめ

骨盤底筋は「排泄のための筋」ではなく、呼吸・姿勢・内臓支持・痛み制御といった多面的な役割を持つ重要な構造です。
臨床での理解が深まれば、腰痛や尿失禁、姿勢異常など全身症状の根本改善にもつながります。

理学療法やピラティス、産後ケアなど、どの分野でも「骨盤底をどう扱うか」が、身体づくりの質を左右する時代です。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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