物理療法

末梢神経電気刺激のメカニズムとリハビリへの有効性を徹底解説

はじめに

リハビリテーション分野において、末梢神経への電気刺激は長年活用されてきました。
特に脳卒中や脊髄損傷などで運動麻痺を呈する症例に対し、電気刺激は「神経可塑性を高めるアプローチ」として注目されています。

本記事では、末梢神経電気刺激のメカニズムと、その代表的な方法(PNS・NMES・FES)の臨床効果について整理します。


電気刺激の基本的な反応

電気刺激は、その強度に応じて以下のように生体が反応します。

  • 感覚閾値以下:無感覚
  • 感覚閾値:感覚があるが筋収縮はなし
  • 運動閾値:筋収縮が触知できるレベル
  • 疼痛閾値:痛みを伴う強度

末梢神経刺激では、まず感覚神経や運動神経の脱分極が生じます。その結果、筋収縮や関節運動が起こり、求心性入力が増加。この持続的な入力が大脳皮質の運動ネットワークに作用し、神経可塑性を促すと考えられています。


体性感覚電気刺激(PNS)

**Peripheral Nerve Stimulation(PNS)**は、感覚閾値程度の強度で一定時間行う方法です。

  • 運動閾値未満では、皮質脊髄路の興奮性がむしろ抑制される可能性も報告されています。
  • 慢性期脳卒中患者を対象に、麻痺手の尺骨神経や正中神経へ2時間の感覚閾値刺激を行った研究では、皮質内抑制が減少し、上肢機能が向上したとの報告があります。

このように、PNSはトレーニング前の「準備刺激」として用いることで、その後の運動学習効果を高める可能性があります。


神経筋電気刺激(NMES)

**Neuromuscular Electrical Stimulation(NMES)**は、運動閾値以上の強度で筋収縮を誘発する電気刺激です。

  • 感覚入力に加え、筋収縮そのものが「運動感覚」として中枢に入力され、皮質脊髄路の興奮性を高めるとされています。
  • 低強度・長時間刺激でも効果がありますが、関節運動を伴う強度ではより短時間で効果が得られると報告されています。
  • 刺激周波数は重要で、20〜50Hzが有効であり、10Hz以下では効果が乏しいとされています。

臨床的には、NMESは運動制御能力やスキル獲得の促進に寄与し、システマティックレビューでもADL改善効果が確認されています。特に亜急性期の中等度〜重度症例に有効とされています。


機能的電気刺激(FES)

**Functional Electrical Stimulation(FES)**は、運動麻痺に対して「実際の動作を再建する目的」で使用されます。

  • 電気刺激により筋収縮を誘発し、動作と同期させる点が特徴です。
  • ハンドスイッチ、加速度計、筋電図などを用いて動作のタイミングを合わせます。
  • 脳卒中患者の上肢・下肢機能、歩行能力の改善に有効であると多くのレビューで報告されています。

また、歩行におけるFESは装具療法と比較されることが多いですが、**代償的な効果(orthotic effect)に加え、FESでは治療的効果(therapeutic effect)**が得られる可能性があります。ただし、症例ごとに適応を検討する必要があります。


まとめ

末梢神経電気刺激は、その目的に応じて PNS・NMES・FES と使い分けられます。

  • PNS:感覚閾値での刺激 → 運動学習効果を高める
  • NMES:運動閾値以上の刺激 → 中枢可塑性を促進、ADL改善
  • FES:動作と同期した刺激 → 運動再建・歩行改善

リハビリテーションにおける電気刺激療法は、単なる補助ではなく「中枢神経の可塑性を高める治療的アプローチ」として位置づけられています。
臨床場面では、症例の回復段階や重症度に応じて適切に選択し、運動療法と組み合わせて活用することが重要です。

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taka
理学療法士TAKAが自分の臨床成果を少しでも高めるために、リハビリ・運動学・生理学・物理療法について学んだ内容を発信。合わせて趣味の読書や自己啓発等の内容の学びも自己満で発信するためのブログです。