「何か快楽にふけりたくなったときは、ほかの衝動と同じく、それに流されないように用心せよ。」
これは古代ローマの哲学者エピクテトスが『提要』で残した言葉です。
一瞬の快楽に身を委ねることは簡単ですが、その後に訪れるのは後悔や自己嫌悪。逆に誘惑に打ち勝ったときには、大きな満足感と誇りが得られます。エピクテトスは、この「快楽と後悔」「自制と誇り」のコントラストを思い起こすことで、人は衝動を乗り越えられると説いています。
快楽の裏にある後悔
私たちはしばしば「快楽=良いもの」と短絡的に考えがちです。甘いものを食べる、夜更かしをする、欲しいものを衝動買いする。その瞬間は幸福感に包まれるでしょう。
しかし、そのあとどうなるでしょうか?
- 食べ過ぎた罪悪感
- 睡眠不足による疲労
- 無駄遣いの後悔
このように、短期的な快楽のあとに苦痛が待っていることは珍しくありません。むしろ「快楽が苦痛に変わる」のは人間の心理に深く根付いた法則とも言えるでしょう。
チートデイに隠された仕組み
現代のダイエット法にも、エピクテトスの洞察に通じる仕掛けがあります。その一つが「チートデイ」です。
チートデイとは、普段は節制しつつ、週に一度だけ好きなものを好きなだけ食べてよいとする方法です。一見すると夢のようですが、実際には「暴飲暴食のあとに押し寄せる罪悪感」を体験させる仕組みでもあります。
その結果、「もうこんな気分になりたくない」と感じ、自然と過度な欲望から距離を置けるようになるのです。これは、エピクテトスが語る「快楽の結果を思い出せ」という実践法に近いものです。
自制心を育てるための実践ステップ
快楽に負けないためには、ただ我慢するだけでは続きません。大切なのは「快楽と後悔」「自制と満足」を比較し、心の中にしっかりイメージとして持つことです。
- 快楽を得た瞬間を思い出す
どんな感覚だったか?そのときの幸福感はどれほど続いたか? - その後に訪れた後悔を思い出す
罪悪感、疲労、自己嫌悪など。心身にどんな影響があったか? - もし誘惑を乗り越えたらどう感じるかを想像する
誇り、安心感、自分への信頼。こちらのほうが長く続く心地よさになる。
こうした振り返りを習慣にすれば、少しずつ誘惑の力は弱まっていきます。
真の快楽は「自制」にある
私たちは「快楽=欲望を満たすこと」と考えがちですが、エピクテトスは逆の視点を与えてくれます。
- 快楽に流される → 一瞬の喜びと長い後悔
- 快楽に勝つ → 達成感と長く続く満足
この比較を繰り返すことで、自制そのものが「真の快楽」だと気づくのです。
まとめ ― 快楽と苦痛を見極める力
快楽は一瞬の輝きのように魅力的に見えますが、その後に苦痛をもたらすことが少なくありません。逆に、欲望を抑えたときに得られる自制心の満足感は、より深く、長続きする喜びになります。
エピクテトスが説くように、私たちは快楽の「その先」を思い出すことで誘惑に勝つ力を養えます。日常の中で、小さな衝動に打ち勝つたびに、自分自身への信頼と心の強さが積み重なっていくのです。