『日本経済の「実力」は嘘?数字のマジック「潜在成長率」の正体』
経済成長を支える3つのエンジン
今回は、経済ニュースで頻繁に目にする「潜在成長率」という言葉について掘り下げてみたい。 字面だけ見ると、「その国が秘めている本来の成長力」のように聞こえるが、その正体は何なのだろうか。 定義としては、その国の供給能力、すなわち「潜在GDPの伸び率」を指す。 この数字を構成しているのは、大きく分けて3つの要素である。 「資本投入量」、「労働投入量」、そして「全要素生産性」だ。
資本や労働の投入量を増やせば、供給能力が高まるというのは直感的に理解できるだろう。 工場を増やし、働く人を増やせば、作れるモノの量は増える。 では、耳慣れない「全要素生産性」とは何か。 これは、資本や労働の量だけでは説明がつかない、「謎の生産拡大」の部分を指している。 例えば、資本を1、労働を1増やしただけなのに、なぜか生産量が3も増えてしまったとする。 計算が合わないこの増分こそが、技術革新や労働者の熟練度アップによる「生産性の向上」であり、それを経済学では全要素生産性というカッコいい言葉で呼んでいるわけだ。 技術革新などがどれだけ起きるかは誰にも予測できないため、計算上の「残り(残差)」として扱われているのが実情である。
投資を止めた日本の衰退
さて、この3つのエンジンの状態を、日本の歴史に照らして見てみよう。 1990年代までは、日本経済は「資本投入量」が大きく貢献していた。 当時の企業は、未来を信じてしっかりと設備投資を行っていた証拠である。 しかし、21世紀に入ってから風向きは大きく変わる。 資本投入の影響力は見る影もなく小さくなり、少子高齢化の影響もあってか、労働投入量に至ってはマイナスが続くようになった。 つまり、工場も増やさず、人も減っているため、経済成長を「全要素生産性(技術革新などの効率化)」だけに頼らざるを得ない構造になってしまったのだ。
さらに深刻なのが、2008年のリーマンショック以降である。 この時期、企業はパニックになり、既存の設備の維持更新すらやめてしまった。 その結果、2009年以降はなんと資本投入量までもがマイナスに転じている。 人も減り、設備も老朽化していく。 「成長する気などありません」と宣言しているような、惨憺(さんたん)たる状況といえるだろう。
「実力」ではなく「過去の通知表」
ここで思い出してほしいのが、前回の講義で触れた「潜在GDPの定義」である。 内閣府は現在、潜在GDPを「最大能力」ではなく、「過去の平均」で計算していると解説した。 ということは、その伸び率である「潜在成長率」もまた、結局のところ「過去のGDP成長率の平均値」に過ぎないということになる。
ここが最大の落とし穴だ。 マスコミや有識者は、「日本の潜在成長率が低いから、成長できない」とまことしやかに語る。 まるで日本経済の「実力」や「才能」が枯渇してしまったかのように言うが、それは大きな間違いである。 正しくは、「過去に成長しなかったから、計算上の潜在成長率が低く出ているだけ」なのだ。 これは未来を占う水晶玉ではなく、単なる過去の通知表の平均点に過ぎない。
解決策はシンプルに
したがって、潜在成長率を高める方法は極めてシンプルである。 つべこべ言わずに、実際に経済成長すればいいのだ。 政府が投資し、民間が投資し、現実のGDPを拡大させていく。 そうすれば、後追いで計算される潜在成長率も、勝手に上がっていく仕組みになっている。 「実力がないから成長できない」のではない。 「成長しようとしないから、実力(数値)が低く見えている」だけなのだ。 この因果関係の逆転に気づけば、日本経済復活への道筋は、意外なほど単純明快に見えてくるはずである。
