「譲る」ことで人生は豊かになる──『菜根譚』に学ぶ、ゆとりと調和の生き方
狭い道では、一歩譲る
『菜根譚』には、こんな言葉があります。
「狭い小道では、一歩よけて人に道を譲ってあげよう。争って先に進もうとすれば、道はますます狭くなる。」
なんとシンプルで、そして深い教えでしょう。
人は、ほんの少しの場面でも「自分が先に」「自分が得を」と思ってしまいます。
しかし、そこで争えば、関係はぎくしゃくし、心も狭くなってしまう。
一歩譲る――それだけで、道は広がり、空気が柔らかくなります。
譲るとは、負けることではなく、「ゆとりを持つ」ということなのです。
「譲る力」は現代にこそ必要
現代社会は、成果やスピードを競う“奪い合い”の時代。
ビジネスでも人間関係でも、「いかに自分を通すか」が重視されがちです。
けれど、譲ることができる人ほど、長く信頼され、周囲から慕われます。
それは、譲る行為の中に「安心感」と「品格」があるからです。
「この人は焦っていない」「この人は余裕がある」
そう感じさせる人には、自然と人が集まります。
つまり、譲るというのは、他人のためであると同時に、自分の心を整える行為でもあるのです。
「おいしいものを分ける心」が人生を豊かにする
『菜根譚』はさらに続きます。
「おいしい物を食べるときには、進んで相手に分けてあげよう。」
これは単なる“食べ物の分け合い”ではなく、
「自分の幸せを独り占めしない」という姿勢を表しています。
人は、何かを分け与えるときに「減る」と思いがちですが、実際には逆です。
分けるほどに、喜びも信頼も広がっていく。
小さな思いやりが、職場を明るくし、家庭をあたたかくする。
それが「譲る心」がもたらす最大の恩恵です。
譲ることは「負け」ではない
譲ることを“弱さ”と感じる人もいるかもしれません。
しかし、譲れる人は、心が強い人です。
- 自分の感情をコントロールできる
- 他人の立場に立って考えられる
- 結果ではなく過程を大切にできる
これは、いずれも成熟した人にしかできないこと。
「譲る」とは、自分を抑えることではなく、より高い視点から物事を見る力なのです。
競うより、調和をつくる
『菜根譚』の教えは、「争いより調和を選べ」という姿勢を一貫して説いています。
狭い道で譲るように、人生もまた、他人と“並んで歩く”もの。
競争だけを優先すると、心が疲弊していきます。
しかし、譲り合いながら進む道には、安心とつながりがあります。
“勝つこと”より“調和すること”に価値を見いだせたとき、
人は本当の意味で自由になるのです。
譲ることで、人生は広がる
譲ることによって失うのは一瞬の優先権。
けれど、得られるのは長く続く信頼と、心の平穏です。
それはまるで、狭い道を譲ったあとに感じる、あの穏やかな空気のよう。
ほんの少しの思いやりが、世界をやわらかく変える。
「譲る心が、この世をうまく生きていく秘訣である。」
菜根譚が伝えるこの言葉は、今を生きる私たちにこそ必要な智慧です。
他人を押しのけるより、譲って笑い合える人でありたい。
それが、豊かに生きるいちばんの近道なのです。
