怒りを出さない練習をせよ──新渡戸稲造『世渡りの道』に学ぶ、感情を整える毎日の習慣
怒りを抑えることは、「訓練」である
新渡戸稲造は『世渡りの道』で、こう語ります。
「いつも怒りの感情を表に出しているようでは、決して怒りに打ち勝つことはできない。」
怒りは人間にとって自然な感情のひとつです。
しかし、怒りを“表に出すこと”に慣れてしまうと、
その都度感情に支配され、やがて自分の意思で制御できなくなります。
新渡戸は、怒りを抑えることを「生まれつきの性格」ではなく、
“心の訓練”によって養う技術だと説きました。
怒りを抑える力は、学問や知識よりも、
むしろ日々の心の鍛錬によって磨かれる——
それが「修養」の核心なのです。
「怒りに負けなかったか」を一日一度ふり返る
「せめて日に一度でも、今日自分は怒りに負けることがなかったかどうかを振り返ってほしい。」
新渡戸は、感情のコントロールを「日々のチェック」から始めるよう勧めています。
たとえば——
- 誰かの言葉にイラッとした瞬間、すぐ反応しなかったか?
- 些細な出来事に、必要以上に怒っていなかったか?
- 怒りを出さずに済ませた場面はなかったか?
このように、一日の終わりに自分を見つめ直す習慣を持つことが重要だと説いています。
怒りの感情は「瞬間的」ですが、
その後に冷静に振り返ることで、少しずつ自己制御の力が育ちます。
「怒りを少なくする工夫」をする
「もし負けたと思うことがあったなら、それを少しでも少なくする工夫をしてほしい。」
ここでのポイントは、「怒らないようにしよう」と気合で抑えることではありません。
新渡戸は、「工夫せよ」と言っています。
つまり、怒りを減らすための仕組みを自分でつくるのです。
たとえば、
- 人に注意する前に10秒深呼吸する。
- 返信や発言を一晩寝かせてから行う。
- 苛立つ状況をメモして「パターン化」しておく。
こうした工夫は、一見小さなことですが、
日常の中で「怒りを出さない練習」を積む最も実践的な方法です。
怒りの感情は一瞬で燃え上がります。
しかし、その「一瞬」を乗り越える工夫を持つ人は、
やがて感情に左右されない穏やかな強さを身につけるのです。
新渡戸自身も「短気」だった
「実は私も生来短気で、すぐに怒りを表に出してしまうことが多かった。」
この告白は、多くの読者にとって意外かもしれません。
あの温厚で理知的な印象の新渡戸稲造も、もともとは「短気」だったのです。
しかし、彼が偉大だったのは、
その性格を“努力で変えよう”としたことです。
「毎晩寝る前に、今日はなぜ怒ったのか、また何度怒りに負けたかを反省し、怒りを抑えるように努力している。」
これはまさに、現代で言う「セルフモニタリング」や「メンタルトレーニング」にあたります。
彼は毎晩、自分の感情を観察し、怒りの原因を分析し、翌日への改善策を考えた。
つまり、怒りを抑える力とは、
**天性の穏やかさではなく、習慣によって身につく“技”**なのです。
怒りを出さない人は、「心に余裕のある人」
怒りを出さない人というのは、感情を押し殺している人ではありません。
むしろ、心に余裕を持っている人です。
怒りを出さないということは、
「今この場で反応する必要はない」と理性的に判断できるということ。
それは、心の中に「一呼吸おけるスペース」を持っている人だけができることです。
新渡戸が説いた“修養”とは、
怒りを「我慢」することではなく、
心を広く保ち、感情の波を静かに見つめる力を養うこと。
まさにそれは、現代のマインドフルネスにも通じる考え方です。
「怒りを出さない練習」が人生を変える
怒りの感情を抑えられるようになると、
人間関係の摩擦が減り、判断の誤りも少なくなります。
何より、自分自身が平穏でいられるようになります。
新渡戸が言うように、
日々の「怒りを出さない練習」は、一見地味ですが、
その積み重ねが人格を深め、人生を豊かにしていくのです。
今日一日を振り返って、
「自分はどんな場面で怒りを出しただろうか?」
この問いを習慣にするだけで、心の在り方は確実に変わっていきます。
まとめ:感情を整えるのも「修養」の一部
『世渡りの道』第141節の教えをまとめると、次の3つになります。
- 怒りは訓練によって制御できる。
- 毎日「怒りに負けなかったか」を振り返る習慣を持つ。
- 怒りを出さない人こそ、心に最も余裕のある人である。
怒りを抑えることは、我慢ではなく、成熟です。
新渡戸稲造が身をもって示したように、
感情をコントロールする力こそ、真の「世渡りの知恵」なのです。
最後に
新渡戸稲造の言葉を現代風に言えば、こうなります。
「怒らない人は、訓練された人である。」
怒りを出さない練習は、誰にでもできる“日々の修養”。
一日の終わりに静かに自分を振り返る時間を持つ——
それが、穏やかで気品ある生き方への第一歩です。
