静かに生きる力──菜根譚に学ぶ「主張しすぎない人」の強さ

声高に主張せず、穏やかに生きる──『菜根譚』の静かな教え

中国・明代の思想家・洪自誠が記した『菜根譚（さいこんたん）』は、現代にも通じる人生哲学の宝庫です。
その中の一節に、次のような教えがあります。

「主義主張を振りかざす者は、それが誤っていたとき、その主義主張を理由に批判される。
また道徳を振りかざす者は、過ちを犯したとき、その道徳を理由に誹謗中傷される。
だから、悪に近づかず、しかもよい評判や名声とも無縁に、ひたすら穏やかな気持ちで生きるべきだ。
それでこそ、安全に世の中を渡ることができる。」

現代に置き換えると、
「声を上げすぎる人ほど、批判を招きやすい」
「正しさを振りかざす人ほど、つまずいたときに責められやすい」
という意味に通じます。

『菜根譚』は、主張よりも静かな誠実さを大切にせよと説いているのです。

現代社会は「主張すること」が評価される時代

SNSやメディアを通じて、誰もが簡単に意見を発信できる今。
「自分の考えをはっきり言うこと」が、良いこととされる傾向があります。

もちろん、主張そのものが悪いわけではありません。
しかし、**「声を大きくすること＝価値がある」**という風潮の中で、
他者を攻撃したり、相手を否定するような発信が増えているのも事実です。

そして一度主張したことが間違っていたとき、
その言葉が自分を縛り、苦しめることも少なくありません。
洪自誠が語る「声高に主張する危うさ」は、
まさに現代社会の“情報の洪水”に通じる警告なのです。

穏やかに生きる人は、信頼される

『菜根譚』の教えにあるように、
「穏やかに生きる人」は、最も安全に、そして深く人生を歩める人です。

穏やかな人は、
・他人を急かさず、
・自分を大きく見せようとせず、
・必要なときにだけ言葉を発する。

そんな人の言葉ほど、静かに重く響きます。
声を荒げなくても伝わる信頼感。
それは、日々の誠実な行動が積み重なって生まれるものです。

「悪にも善にも偏らない」という智慧

洪自誠は、「悪を避けるのはもちろんだが、名声にも近づくな」と書いています。
これは、善悪のどちらにも偏らない“中庸の道”を示しています。

私たちはつい、「良い人でありたい」「評価されたい」と思って行動します。
しかし、その“良く見られたい欲”が、実は心を不安定にしてしまう。

他人の目を気にして正しさを演じるより、
静かに、自分の中の正直さを守る。
それが、『菜根譚』の言う「穏やかに生きる」ということです。

穏やかに生きるための3つの実践法

現代社会の中で「静かに、穏やかに生きる」ためには、
少しの意識と習慣で心を整えることが大切です。

1. すぐに反応しない

SNSのコメント、メールのトラブル、人との誤解——。
すぐに言い返したくなる場面こそ、一度深呼吸を。
「沈黙は金」という言葉の通り、黙ることで守られる関係も多いのです。

2. 「正しさ」より「穏やかさ」で判断する

何が正しいかよりも、「この言葉は人を傷つけないか」で判断する。
正論よりも、優しさを選ぶことができる人が、本当の強さを持っています。

3. 名声を追わず、日々を丁寧に生きる

称賛も批判も、時間が経てば消えていくもの。
それよりも、自分の目の前にいる人を大切にする。
派手な実績よりも、日々の誠実さの積み重ねが、最も確かな信用になります。

「静かな人」が持つ、内なる強さ

穏やかな人は、決して“弱い人”ではありません。
むしろ、強い感情を自分の中で整える力を持つ人です。

感情的に反応せず、
自分を誇示せず、
ただ淡々と、自分の軸で生きる。

そうした人は、
風が吹いても揺れず、
人に批判されても心を乱さない。
その安定感が、周囲に安心を与えます。

洪自誠の言葉を現代風に言えば、
「SNSで騒がず、静かに自分を貫く人ほど信用される」
ということになるでしょう。

まとめ──静けさは、最大の力である

『菜根譚』の「声高に主張せず穏やかに生きる」は、
現代の“自己主張の時代”にこそ響く教えです。

正義や信念を持つことは大切です。
しかし、それを「見せつける」必要はありません。

正しさは声の大きさではなく、
日々の行動に宿るもの。

穏やかで、控えめで、しかし揺るがない。
そんな人こそが、時代を超えて信頼され続けるのです。

洪自誠が描いた理想の人とは、
静かにして深く、目立たないけれど確かな光を放つ人。
まさに、「声高に語らず、穏やかに生きる」その姿こそが、
真の知恵者の生き方なのです。

TAKA

理学療法士/ビール

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理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。