「恵まれていない」と思ったときこそ、気づいてほしい──幸せは“持っているもの”の中にある
人生には、どうしても思い通りにいかない時期があります。
努力しても報われない。
築いてきたものを失い、希望さえ見えなくなる──。
そんなとき、私たちは「自分は不幸だ」「なぜ自分だけが」と嘆きがちです。
けれども、デール・カーネギーの『道は開ける』に登場するハロルド・アボット氏の体験は、
そんな思考を根本から変えてくれる深い気づきを与えてくれます。
■ 貯金を失い、借金を背負い、すべてを失った日
アボット氏は、かつて心配性の典型のような人間だったといいます。
そしてある日、彼の人生はどん底を迎えました。
「大恐慌で貯金をすべて失い、さらに莫大な借金を背負い、経営していた食料品店も倒産した。」
仕事もお金も失い、将来への希望も失った。
その日、アボット氏は打ちひしがれた気持ちで、とぼとぼと街を歩いていました。
胸の中にあったのは、絶望と自己憐憫(れんびん)──つまり「自分を哀れむ心」だけでした。
■ 運命を変えた“10秒間の出会い”
そのとき、アボット氏の前に一人の男性が現れました。
彼は松葉杖をつき、両足が義足の状態でした。
しかし、彼はアボット氏を見て、にこやかに笑いかけてきたのです。
「その笑顔を見た瞬間、私はハッとした。
失ったものではなく、“まだ自分が持っているもの”に気づいたのです。」
両足を失っても笑顔でいられる人がいる。
それに比べ、自分は健康な体があり、目も見え、耳も聞こえ、まだ動ける。
たった10秒の出会いで、彼の心の中に“感謝”が芽生えました。
■ 「失ったもの」ではなく「残されたもの」を見る
この出来事によって、アボット氏はそれまでの生き方を根底から見直しました。
「自分を哀れんで悲しみに打ちひしがれているのが恥ずかしくなった。
そして元気を出して、一から出直す決意をした。」
彼は再び働き始め、ゼロから人生を再建します。
絶望を希望に変えたのは、特別な幸運でも、他人の助けでもありません。
それは、「自分はまだ恵まれている」と気づいた瞬間の心の転換でした。
■ 不幸を感じる人ほど、“持っている幸せ”を見失っている
心理学的にも、人が不幸を感じるのは「現実が悪いから」ではなく、
「比較」や「欠乏」に焦点を当ててしまうからだといわれています。
- 他人と比べて劣っている
- 過去にあったものを失った
- 望む結果が得られない
このような思考のクセが、不安や自己否定を生み出します。
しかし、視点を変えて「自分にまだ残っているもの」を数えてみると、
私たちは想像以上に多くの恵みに囲まれていることに気づきます。
- 体が動く
- 家がある
- 食べるものがある
- 話を聞いてくれる人がいる
それらは、失って初めて気づく“日常の奇跡”です。
■ 「気づく力」が、どんな苦境も乗り越える原動力になる
アボット氏が立ち直れたのは、
「問題を解決したから」ではなく、「心の焦点を変えたから」でした。
人生を変えるのに必要なのは、大きな成功ではなく、
小さな気づきと感謝の積み重ねです。
落ち込んでいるときほど、
「自分にはまだ何があるだろう?」と問いかけてみてください。
その問いが、絶望を希望に変える最初の一歩になります。
■ 感謝は、失ったものを取り戻す“心の技術”
感謝の気持ちは、ただの美徳ではありません。
それは、心の健康を守るための「技術」でもあります。
アメリカの心理学者ロバート・エモンズ博士の研究によると、
毎日感謝を記録する「グラティチュード日記」をつける人は、
幸福度が25%以上高く、ストレスや抑うつが大幅に減少したといいます。
つまり、感謝は脳と心に“幸福を呼び戻すスイッチ”を入れるのです。
■ まとめ:「恵まれていない」と思うときこそ、見つめ直そう
- 自分を哀れむより、まだ持っているものに気づく
- 感謝の視点が、落ち込みを前向きに変える
- 小さな気づきが、大きな再出発の力になる
デール・カーネギーがこの話を紹介したのは、
**「幸せとは、状況ではなく心の向け方で決まる」**という真理を伝えるためです。
ハロルド・アボット氏のように、
あなたも今日、何か一つ“まだ持っているもの”を見つけてみましょう。
その瞬間から、人生は少しずつ光を取り戻していきます。
