はじめに
大腿直筋は大腿四頭筋の中で唯一の二関節筋であり、股関節屈曲と膝関節伸展の両方に作用します。そのため、柔軟性の低下や短縮は膝関節機能や歩行動作に大きな影響を及ぼします。
臨床では、大腿直筋の短縮を評価するための大腿直筋短縮テストが用いられます。本記事ではその実施方法と臨床的解釈、さらに柔軟性改善のための具体的な運動療法を紹介します。
大腿直筋短縮テストの方法
開始肢位
- 検査側:股関節伸展位
- 非検査側:股関節屈曲位(約100°)
→ 骨盤を安定化させ、代償動作を防ぐ
実施手順
- 検査側の膝関節を徐々に屈曲
- 膝蓋骨が遠位方向へ滑動するのを確認
- 膝蓋骨の滑動が制止した時点で屈曲角度を測定
注意点
- 膝蓋骨制止後に無理に屈曲を続けると、膝蓋靭帯や支帯に過剰な伸張ストレスがかかる
- 測定は膝蓋骨の動態を指標に行うことが重要
臨床的解釈
膝屈曲角度は伸展機構の伸張性と滑走性に依存します。
- 大腿四頭筋(特に大腿直筋)の柔軟性が低下すると、膝関節屈曲は制限される
- 膝蓋靭帯や膝蓋支帯の柔軟性が不十分だと、膝蓋下脂肪体(IPF)の可動性も阻害される
したがって、大腿直筋短縮は伸展機構全体の機能低下を意味します。臨床では「大腿直筋の柔軟性回復=伸展機構の機能回復」と捉えて治療を進める必要があります。
柔軟性改善のための運動療法
基本肢位(C19b)
- 患者を腹臥位にする
- 非治療側:股関節屈曲位
- 治療側:膝関節屈曲し、大腿直筋を伸長位に保持
実施手順
- 等尺性収縮(C19c)
- 治療側の膝関節を伸展方向へ軽い等尺性収縮
- 収縮強度は軽度に留める
- 求心性収縮へ切り替え
- 速やかに求心性収縮へ移行
- 大腿直筋を活動させつつ、伸張性を確保
- 再伸長
- 収縮後にさらに膝関節を屈曲させ、大腿直筋を伸張位へ導く
- 反復
目標
- 大腿直筋短縮テストが陰性化すること
- 膝屈曲可動域の改善と膝伸展機構の動態回復
治療のポイント
- 伸展ラグの有無を確認:膝屈曲可動域を求める前に、伸展機構が円滑に機能しているかを評価
- IPFの可動性確保:膝蓋靭帯・膝蓋支帯とともにIPFの区画を保ち、滑走性を確保する
- 過伸張の回避:膝蓋骨や靭帯に過剰なストレスがかからないように調整
まとめ
- 大腿直筋短縮テストは、股関節伸展位+膝関節屈曲で柔軟性を評価する方法
- 膝蓋骨の滑動を指標に角度を測定することで、靭帯や支帯への過負荷を回避できる
- 大腿直筋の柔軟性改善は伸展機構全体の機能回復に直結
- 等尺性収縮 → 求心性収縮 → 伸長を反復することで柔軟性を効果的に向上可能
大腿直筋は膝機能を支える重要な筋であり、その短縮を見逃さず、適切な評価と運動療法を行うことが臨床効果を高めるカギとなります。
ABOUT ME

理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。