リハビリを軽視した人の末路|整形外科リハにおける「機能回復」の本質
リハビリを軽視した人の末路|整形外科リハにおける「機能回復」の本質
リハビリ、正式には「リハビリテーション」と言います。その定義は、病気やけがによる後遺症を持つ人が社会復帰するための身体的・心理的訓練や職業指導とされています。
本稿では、整形外科領域――つまり「運動器リハビリテーション(骨・関節・筋肉・靭帯などの回復)」に焦点を当てて解説します。
手術が成功しても「機能」が戻らない現実
ある患者Aさんが膝の骨折後に手術を受けたケースを考えてみましょう。
手術は無事成功。しかしAさんは痛みを理由にリハビリを控えめにしてしまいました。結果、術後1か月で膝は20〜60度ほどしか動かず、屈伸動作ができない状態に。主治医に「リハビリ…サボってますね?」と指摘されてしまいます。
その後に懸命にリハビリを再開したものの、可動域は90度で頭打ち。正座もしゃがみ動作も困難となり、日常生活に大きな制限が残ってしまいました。
手術が成功しても、リハビリが不十分だと「動く身体」は取り戻せない。この現実は、臨床の現場で誰もが経験するテーマではないでしょうか。
「構造」と「機能」――整形外科治療の二本柱
整形外科領域のリハビリで重要なのは、「構造」と「機能」という二つの視点です。
外科医が担うのは構造の修復。たとえば骨折なら、骨を正しい形に整復し、プレートやスクリューで安定化させることが目的です。
それに対し、理学療法士・作業療法士が担うのは機能の回復。筋・関節・神経が協調して「動く」という最終ゴールに導くことです。
どんなに構造が整っていても、関節可動域が失われたり筋の伸張性が低下すれば、運動器としての機能は発揮されません。
「痛み」と「動かす勇気」——患者教育のカギ
多くの患者は「痛みがある=動かしてはいけない」と思いがちです。
しかし、整形外科術後のリハビリでは、適切な負荷とタイミングでの運動刺激こそが治癒を促す要素となります。
臨床家に求められるのは、「なぜ今この動きをする必要があるのか」を患者に説明する力です。
「痛みがあるけれど、この動きは関節の癒着を防ぐために必要」といった説明を加えるだけで、患者のモチベーションは大きく変わります。
リハビリを「我慢」ではなく「回復へのプロセス」として理解してもらうことが重要です。
可動域制限を防ぐための臨床的ポイント
- 術後早期からの可動域訓練
受傷部位の安定性を確認したうえで、痛みを許容範囲内に抑えながら関節運動を導入する。 - 運動連鎖を意識した介入
膝関節だけでなく、股関節・足関節の動きや骨盤の制御にも着目。局所に固執しない全体アプローチを行う。 - 心理的サポートの併用
痛みや恐怖心がリハビリ継続を阻害することも多い。動作練習と並行して認知的アプローチを意識する。 - 患者教育とセルフエクササイズの指導
「なぜやるのか」「どうすれば良いのか」を自宅でも理解してもらうことが、最終的な回復を左右する。
まとめ:リハビリは「機能回復の主役」
整形外科医の多くが口を揃えて言います。
**「リハビリの方が手術より大切」**だと。
手術は構造を整える手段に過ぎません。
本当の「治療の成功」とは、患者が再び動ける身体を取り戻すこと。その中心にあるのが、我々リハビリ専門職の役割です。
Aさんのように、リハビリを軽視してしまうと取り戻せない機能があります。
だからこそ、痛みや恐怖心に寄り添いながら、患者に「動かす意味」を伝え、最適なタイミングで介入していくことが、臨床家としての使命なのです。
