書籍紹介

『リスクマネジメント ― 変化をとらえよ』|リスクを“恐れ”から“成長戦略”へ変える経営思考

taka

『リスクマネジメント ― 変化をとらえよ』──不確実性を味方にする“攻めの経営術”

「リスクを取らないことが、最大のリスクである。」

そう断言するのが、本書『リスクマネジメント ― 変化をとらえよ』です。
著者は、デロイト トーマツ リスクアドバイザリー。
世界中の企業にガバナンスやサイバー対策を提供してきた、
リスクマネジメントのプロフェッショナル集団です。

この一冊は、「リスク=悪いもの」という固定観念を覆します。
リスクを正しく理解し、経営の意思決定に活かす――
そのための考え方と仕組みを、実例を交えて明快に解説しています。


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1. リスクマネジメントは「経営そのもの」

デロイトは、リスクを次のように定義します。

「リスクとは、不確実性がもたらす影響である。」

つまり、良い結果にも悪い結果にもなりうる“変化そのもの”です。
重要なのは、「リスクを避けること」ではなく、
“コントロールして成長に転換すること”

たとえば、想定外の需要増。
売上は伸びても供給が追いつかなければ、
顧客離れや信頼失墜につながる。

リスクマネジメントとは、
こうした事業への影響を“想定内”に収める経営の仕組みです。


2. リスクには3つの層がある

企業が直面するリスクは、大きく3層に分類されます。

  1. 戦略リスク … 経営戦略そのものに関わる不確実性
  2. 事業リスク … 日常の事業運営に伴うリスク
  3. インフラリスク … ITやサイバーなど基盤に関わるリスク

組織全体でリスクを捉える際、
トップ層から現場まで、それぞれの階層が責任を持つことが欠かせません。

経営者が見るべきは「戦略リスク」。
つまり、どんな未来を描き、どんな変化を受け入れるのか――
ここを誤れば、リスクは一気に「経営危機」へと転化します。


3. 戦略リスクを“見える化”せよ

経営リスクの本質は、「見えないこと」にあります。

企業は事業計画の中で、ROAやROEなどの数値目標を設定しますが、
“どんなリスクを取っているのか”が明確にされていないケースが多い。

「戦略リスクを可視化することこそ、経営の第一歩である。」

と著者は強調します。

戦略リスクを可視化するには、
各事業部門が抱える不確実性を洗い出し、
リスクとリターンのバランスを定量的に評価する。

「何を取るか」「何を避けるか」を明確にしたうえで、
戦略とリスクを一体化させた意思決定を行うことが、
変化の時代を勝ち抜く企業の条件なのです。


4. すべてのリスクに対処してはならない

リスクマネジメントの落とし穴は、「完璧主義」です。

無数のリスクをすべて管理しようとすれば、
企業は身動きが取れなくなります。

「重要なのは、避けるリスクと、取るリスクを見極めること。」

デロイトは、これを“リスクアペタイト(許容度)”と呼びます。
企業がどの程度のリスクを受け入れるかを明確にし、
その範囲内で大胆に挑戦する――これが「攻めのリスク管理」です。

守り一辺倒の企業は変化に乗り遅れ、
挑戦ばかりの企業は崩壊する。
その中間にこそ、持続的成長の道があるのです。


5. サプライチェーン全体でリスクを見よ

現代のビジネスでは、サプライチェーンがグローバルに広がり、
取引先のトラブルが即、自社の信用問題につながります。

デロイトの調査では、
84%の企業が過去3年間にサードパーティー起因のインシデントを経験
そのうち17%は「重大な影響」でした。

したがって、今やリスク管理の範囲は「自社」だけでは不十分です。
取引先や委託先、物流、データ移転先まで含めて、
サプライチェーン全体を俯瞰して管理することが求められています。

法規制や個人情報の取り扱い、環境リスクなども含め、
「共に安全をつくるパートナーシップ」が必要です。


6. サイバーリスクは「ネット」だけではない

サイバー攻撃というと、
「ハッキング」や「ネット侵入」を想像しがちですが、
実際には “物理” と “人” を介した攻撃が急増しています。

たとえば、オフィスに侵入してデバイスを仕込む。
あるいはSNS経由で社員を信用させ、
不正ファイルを開かせる――これらは実際に起きている手口です。

対策のポイントは3つ。

  1. 部門横断での対応体制(IT・人事・総務が連携)
  2. **実践的テスト(レッドチームテスト)**による脆弱性の可視化
  3. 侵入を前提とした復旧計画の整備

もはや「防ぐ」ではなく、「侵入されても被害を最小化する」発想が必要です。


7. リスクを“変化のエネルギー”に変える

本書のタイトル「変化をとらえよ」には、明確なメッセージがあります。

「リスクは、変化の副産物であり、成長の源泉でもある。」

つまり、リスクマネジメントとは、
単なる“防御策”ではなく“変化を捉える感性”なのです。

企業の未来を切り拓くのは、
リスクを恐れず、分析し、活かせる人材。
それは経営者だけでなく、現場のすべての社員にも当てはまります。


結論|リスクは「脅威」ではなく「チャンス」である

本書を読み終えると、リスクへの見方が一変します。
リスクを排除するのではなく、理解し、活かす。

「リスクマネジメントは、未来をつくる力である。」

そう言い切る著者の言葉は、
経営者に限らず、あらゆるビジネスパーソンの行動指針になるでしょう。

不確実性の時代を生きる今こそ、
リスクを「変化のチャンス」として掴む力を磨きたい――
それが、この本の最大のメッセージです。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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