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鵞足部と伏在神経の関係を理解する|絞扼性疼痛のメカニズムと臨床での対応

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鵞足部と伏在神経の位置関係を理解する

鵞足部(pes anserinus)は、縫工筋・薄筋・半腱様筋の3つの筋腱が脛骨内側上部に扇状に付着する構造で、膝内側の安定性を担う重要な領域です。
この鵞足部を覆う筋膜を剥離していくと、**表層に縦軸方向に走行する線維束(表層縦軸線維束)**が現れます(C29)。

この表層線維束は、まるで「上腕二頭筋長頭腱の結節間溝を橋渡しする腱膜構造」に似た役割を持ち、鵞足部にかかる応力を表面方向へ分散・制御する働きをしています。
言い換えると、鵞足部表層は膝内側の“応力バンド”として機能しており、膝伸展時に内側軟部組織の緊張を適切に調整しているのです。


伏在神経(saphenous nerve)の走行と痛みの関連

伏在神経(SN:saphenous nerve)は、大腿神経の終枝として内側大腿を走行し、膝内側を経て下腿内側皮下を支配する感覚性神経です。
特に膝内側部では、縫工筋のすぐ深層を通過し、半腱様筋・薄筋腱の間を走るように分布しています。

この解剖学的関係により、鵞足部の表層筋群が過剰に牽引される、あるいは滑走性が低下すると、
伏在神経が表層線維束と筋群との間で圧迫(絞扼)されることがあります。
結果として、膝内側から下腿内側にかけての焼けるような痛み・しびれ・違和感
が出現します。
これは典型的な**伏在神経性疼痛(saphenous neuropathy)**の症状です。


伏在神経性疼痛の臨床的特徴

伏在神経の支配領域は、膝前内側から下腿内側縁にかけての皮膚領域です。
この範囲において、以下のような症状を訴える場合は、伏在神経の関与を疑います。

  • 膝内側〜下腿内側に沿った線状の痛みやしびれ
  • 鵞足部圧迫での放散痛(shooting pain)
  • 長時間の立位・歩行・膝伸展動作で疼痛増強
  • エコー上での伏在神経走行部の肥厚や滑走制限

これらは単なる鵞足炎とは異なり、神経性疼痛の特徴を呈します。
特に、関節包や滑液包への圧痛よりもピリピリとした感覚的異常を伴う場合には、神経絞扼が強く疑われます。


鵞足部表層線維束と伏在神経の絞扼メカニズム

鵞足部表層を構成する縦軸線維束は、伏在神経を覆うように走行しています。
この構造は、膝伸展時に神経を保護する“支持帯”的な役割を果たす一方で、過緊張や癒着が生じると神経を圧迫するリスク因子にもなります。

【絞扼が起こるメカニズム】

  1. 縫工筋や薄筋の過剰緊張
     → 表層線維束が短縮し、伏在神経を下方に圧迫。
  2. 滑走性の低下(筋膜・滑液包の癒着)
     → 神経の自由な動きが制限され、動作時に摩擦刺激。
  3. 姿勢・歩行パターンの影響
     → 膝の過伸展や外反肢位で内側構造が引き伸ばされ、伏在神経に張力が集中。

このように、機能的に働く構造物(表層線維束)が、条件次第で神経絞扼の要因にもなるという点が臨床上のポイントです。


伏在神経性疼痛の評価と治療の考え方

① 評価のポイント

  • 鵞足部の表層触診での圧痛
  • 膝軽度屈曲位での神経牽引テスト(Tinel様徴候)
  • 足関節背屈や膝伸展での神経伸張感の再現
  • エコーによる伏在神経の肥厚・周囲組織との滑走評価

これらを組み合わせることで、鵞足部の滑走障害由来か、神経性要因かを区別できます。


② 治療・介入のポイント

  1. 鵞足部の滑走性改善
     表層縦軸線維束に対して過度な摩擦マッサージを避け、
     軽度牽引+動的モビライゼーションで神経滑走を促す。
  2. 縫工筋・薄筋・半腱様筋の過緊張緩和
     各筋の遠位部を軽度屈曲・外旋位でリリースし、
     神経への圧迫を減少させる。
  3. 股関節・膝関節アライメント調整
     特に膝外反肢位(valgus)を呈するケースでは、
     股関節外旋筋群の再教育と足部内側アーチサポートを組み合わせる。
  4. エコーガイド下モニタリング
     伏在神経の滑走改善を可視化しながら介入を行うことで、
     過剰刺激を防ぎつつ治療効果を客観的に評価可能。

注意点:鵞足部は“一つの単位”として扱う

鵞足部は、縫工筋・薄筋・半腱様筋・筋膜・滑液包・神経といった多層構造から成る機能的ユニットです。
断面によって形態や線維走行が異なるため、局所的なマッサージや圧迫では、逆に神経症状を悪化させることがあります。

そのため、鵞足部をひとつの連続体として認識し、全体の滑走性を再建するように治療を組み立てることが重要です。


まとめ:伏在神経性疼痛を見逃さない臨床目線を

鵞足部表層の縦軸線維束は、伏在神経を支持し、膝内側の動的安定性に貢献しています。
しかし、過剰な牽引や滑走障害によって伏在神経が圧迫されると、膝内側〜下腿内側に広がる神経性疼痛が生じます。

臨床では、

  • 「鵞足炎」だけでなく「伏在神経性疼痛」も疑うこと
  • 解剖学的層構造を理解して評価・介入すること
    が、疼痛改善への鍵となります。

伏在神経と鵞足部の関係を正確に把握し、動的滑走を整えるアプローチを行うことで、
患者の「膝内側のしびれ・違和感」は確実に軽減していくでしょう。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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