瘢痕管理における理学療法の最新動向:エビデンスに基づく非侵襲的アプローチの整理
瘢痕管理における理学療法の重要性
瘢痕は外傷や熱傷、手術後などで生じ、疼痛・掻痒感・可動域制限・心理的負担といった問題を引き起こします。特に肥厚性瘢痕やケロイドは、患者の生活の質(QOL)に大きく影響することが知られています。
これまで瘢痕管理は医師による手術や薬物治療が中心でしたが、近年では理学療法士による非侵襲的介入の有効性が注目されています。
2024年に発表されたスコーピングレビュー(Di Serioら, J Clin Med, 2024)は、非侵襲的な理学療法的介入に関する92本の研究を包括的に整理し、臨床応用の方向性を示しました。
主な理学療法的介入とエビデンスの概要
① 圧迫療法(Pressure Therapy)
最も多く報告された介入(41件)であり、瘢痕の成熟促進や厚みの減少に寄与します。
多くの報告では24mmHg程度の圧を23時間/日、12か月程度継続することが推奨されています。
ただし、圧の測定精度や着用時間のばらつきが課題であり、患者教育とアドヒアランスの確保が効果を左右します。
② シリコン製品(Silicone-Based Products)
31%の研究で報告。シリコンジェルシート(SGS)やシリコンジェルの使用が主で、瘢痕の厚さ・色調・柔軟性の改善に有効とされます。
シートは12〜24時間/日、少なくとも2か月以上の使用が推奨。ジェルは可動部位に適しており、1日2回の塗布が一般的です。
副作用は稀ですが、皮膚刺激や発汗トラブルに注意が必要です。
③ マッサージ療法(Massage / Soft Tissue Mobilization)
20件の研究で取り上げられ、瘢痕の柔軟性向上や疼痛・掻痒感の軽減が報告されています。
一方で、技法や頻度に統一性がないことが課題です。一般的には1回10〜15分、1〜3回/日の施行が推奨され、自己マッサージ指導の有効性も示唆されています。
瘢痕成熟後、組織耐性を確認したうえで導入することが重要です。
④ 物理療法機器(Physical Therapy Modalities)
レーザー(PDL、Nd:YAG、LLLTなど)、ESWT(体外衝撃波療法)、超音波療法、冷却療法などが含まれます。
特にPDLは赤み・厚みの減少に効果を示す報告が多いものの、プロトコルの統一がなく、治療間比較のエビデンスは限定的です。
ESWTは瘢痕の疼痛・掻痒・厚み軽減に有効とされ、1〜2回/週 × 4〜8週間の施行が提案されています。
⑤ スプリント・ストレッチング・教育
スプリント療法は関節拘縮予防を目的に早期から使用されますが、着用時間や形状の標準化が進んでいません。
ストレッチングや可動域訓練は、瘢痕部の伸張性維持に重要であり、皮膚の白化(blanching)を目安に痛みのない範囲で実施します。
また、患者教育は自己管理・圧迫具装着・セルフマッサージなどの理解を深めるうえで欠かせません。
臨床応用に向けたポイント
このスコーピングレビューでは、多くの介入が「専門家の経験や意見」に基づくものであり、高品質なRCTは限定的でした。
したがって、現段階では個々の患者の瘢痕特性(部位・成熟度・皮膚色・年齢・耐性)を踏まえた個別対応が求められます。
臨床家としては次の3点を意識することが重要です。
- 客観・主観的評価の併用
Vancouver Scar Scale(VSS)やPOSASなどのスケールに加え、超音波による厚み測定など客観的指標を取り入れる。 - 多職種連携の強化
形成外科・看護師・作業療法士との協働により、圧迫具・スプリント・ADL指導を統合的に実施。 - エビデンスに基づいたパラメータ管理
例えば圧迫療法では「24mmHg前後」「12か月間」、マッサージは「1回10〜15分・1〜3回/日」など、根拠に基づく設定を意識する。
まとめ:今後の展望
瘢痕管理における理学療法は、圧迫療法・シリコン製品・マッサージ・物理療法機器の多面的アプローチが有効と考えられます。
しかし、現時点では施行条件の標準化や年齢別・部位別効果の検証が不十分であり、今後の高品質研究が期待されます。
臨床では、患者の状態を多角的に評価し、**「根拠に基づいた個別最適な介入」**を目指すことが鍵となります。
瘢痕のリハビリは長期的な経過を要しますが、理学療法士の介入によって、機能回復と生活の質の両立が可能です。
