創傷治癒の過程は通常、止血・炎症・増殖・成熟の4段階を経て終了します。しかし、時に過剰な反応が起こり、瘢痕(Scarring) として残ってしまうことがあります。瘢痕は単なる「傷跡」ではなく、機能制限や審美的問題を引き起こすため、臨床家にとって理解すべき重要なテーマです。
本記事では、ケロイドや肥厚性瘢痕の病態生理、予防、治療について解説します。
1. 瘢痕ができるメカニズム
過剰な瘢痕形成は、筋線維芽細胞(myofibroblast)の持続的な活性化によって引き起こされます。
通常の増殖期では、筋線維芽細胞はやがて線維芽細胞に置き換わります。しかし、置き換えがうまく進まない場合、α-SMA(α-平滑筋アクチン)などのマーカーが過剰発現し、MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)の発現が低下。その結果、コラーゲンが過剰に蓄積してしまいます。
2. ケロイドと肥厚性瘢痕の違い
ケロイドと肥厚性瘢痕(Hypertrophic Scar, HS)は、同じ「線維芽細胞の過剰反応」による病態と考えられています。
- 肥厚性瘢痕(HS)
主にタイプIIIコラーゲンで構成され、創の範囲内にとどまる。
時間とともに改善するケースもある。 - ケロイド
タイプIおよびIIIコラーゲンが沈着し、創の境界を超えて増殖。
体質的要因が強く、再発率が高い。
両者は連続した病態の異なる表現型とも考えられています。
3. 瘢痕の予防 ― 早期介入が鍵
瘢痕予防の基本は 「早期発見・早期対応」 です。
- 感染予防:炎症を長引かせないことが重要
- 適切な創傷管理:湿潤環境の維持と清潔保持
- 紫外線対策:紫外線は瘢痕の色素沈着を悪化させる
- リスクのある部位(胸部、肩、関節部など)での外傷や手術は慎重に対応
また、患者ごとに治癒速度やリスクが異なるため、個別化されたケアが求められます。
4. 瘢痕治療の選択肢
一度できた瘢痕は完全に「消す」ことは難しいですが、様々な治療法でコントロールが可能です。
一般的治療法
- シリコンジェルやシリコンシート
- 圧迫療法
- 外用レチノイド製剤
- 外用イミキモド、5-FUなどの薬剤
- 局所注射(ブレオマイシンなど)
補助的・代替療法
- マイクロニードリング
- ケミカルピーリング
- ダーマブレーション(皮膚削除術)
- 放射線治療(重度のケロイドに適応)
患者の状態や瘢痕の部位によって組み合わせることで、機能改善や再発抑制が期待できます。
5. リハビリテーション職ができる関わり
瘢痕管理は皮膚科や形成外科が中心ですが、リハビリ職にも関わる部分があります。
- 関節周囲の瘢痕:拘縮予防のためのストレッチや関節可動域訓練
- 圧迫療法の指導:患者が自宅で継続できるようサポート
- 日常生活指導:紫外線対策や創部への負荷回避を指導
瘢痕は機能障害と直結することが多いため、リハビリ職の視点からのアプローチは患者の生活の質を守る上で非常に重要です。
まとめ
瘢痕形成は 「創傷治癒の過剰反応」 によって起こります。
- 筋線維芽細胞の活性化とコラーゲン沈着が中心的メカニズム
- 肥厚性瘢痕はタイプIIIコラーゲン、ケロイドはタイプI+IIIコラーゲンが特徴
- 予防の鍵は「感染を防ぎ、早期に適切なケアを行うこと」
- 治療はシリコンジェル、局所注射、放射線など多様な選択肢あり
- リハビリ職は「瘢痕による拘縮予防」と「患者指導」で重要な役割を担う
瘢痕は見た目だけでなく機能制限の原因にもなります。臨床家として正しく理解し、予防と管理に関わることが、患者の回復を支援する大切なポイントです。