リハビリ関連

半膜様筋の運動機能と臨床的意義|膝後内側安定化を担う“制動筋”の役割

taka
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半膜様筋とは ― ハムストリングスの“制動型”筋

半膜様筋(Semimembranosus muscle)は、内側ハムストリングスの深層筋として位置し、
股関節および膝関節の運動と安定性の双方に関与します。

その名の通り「膜様(membranous)」な腱構造を持ち、
ハムストリングスの中でも最も厚く、筋実質部が長いことが特徴です。
一方で、筋腱移行部からは複数の腱枝に分岐して膝関節包や骨へ広く停止するため、
単なる屈筋にとどまらず、膝後内側の制動装置としての機能を持ちます(C38)。


解剖学的特徴 ― 多分岐する停止腱構造

半膜様筋は、坐骨結節を起始とし、膝関節後内側で以下のように分岐して停止します。

  1. 直接枝(direct tendon):脛骨内側顆後方に停止
  2. 反回枝(reflected tendon):後内側関節包・後斜靱帯(POL)に付着
  3. 膝斜走枝(oblique popliteal tendon):膝関節後方を横断し、外側顆方向へ進展

これらの分岐によって、半膜様筋は単なる「膝屈曲筋」ではなく、
膝関節の後方支持機構を多面的に補強しています。
特に反回枝は関節包後方の安定化に寄与し、内側半月板(MM)の後方牽引機能にも関与します。


運動機能 ― 膝屈曲90°で最も発揮される制動力

半膜様筋は、膝関節の強力な屈筋として作用します。
その力は膝屈曲角度によって変化し、膝屈曲約90°で最も高い筋出力を発揮します。

これは、半膜様筋の停止部が膝後内側を越えて前方に広がるため、
屈曲初期よりも中間域で張力の方向が最適化されるためです。

▶ 主な作用

  • 膝関節屈曲(強力)
  • 股関節伸展
  • 下腿内旋(軽度)
  • 膝後方支持・関節包の安定化
  • 内側半月板(MM)の後方牽引

このように、半膜様筋は単に動作を生み出す“動筋”というよりも、
**膝屈曲動作中に後方構造を守る“制動筋”**としての役割が強いのです。


半膜様筋と内側半月板(MM)の関係

半膜様筋の停止腱の一部は、関節包や内側半月板(MM)の後角と連結しています。
そのため、膝屈曲時に半膜様筋が収縮すると、
内側半月板を後方へ牽引するメカニズム
が働き、
半月板の前方移動やインピンジメントを防止します。

この後方牽引作用は、歩行立脚終末や深屈曲時において重要であり、
半膜様筋が不十分に働くと、半月板前方移動による内側関節痛やクリックの一因になります。

また、半膜様筋が過剰に緊張している場合は、
逆にMMの後角を過度に引き込み、屈曲終末での疼痛を誘発することもあります。


半膜様筋と後内側関節包の安定化機構

半膜様筋の停止部は**後斜靱帯(POL)と連続し、
膝の
後内側安定化機構(posteromedial corner)**の主要構成要素です。

▶ 機能的役割

  • 膝伸展時:後方移動を制動(後方亜脱臼防止)
  • 膝屈曲時:POLを介して関節包を後内側方向に牽引
  • 外反・外旋ストレスに対して動的に安定化

このため、半膜様筋は単独で膝を曲げるだけでなく、
膝関節全体の回旋・外反・後方安定性を動的にサポートしているといえます。


選択的伸張の方法と臨床応用

ハムストリングスの一般的な伸張肢位は
股関節屈曲位での膝関節伸展」ですが、
半膜様筋を選択的に伸張するためには下腿の位置関係を工夫する必要があります。

▶ 半膜様筋の選択的伸張肢位

  • 股関節屈曲位
  • 膝関節伸展
  • 腓骨を内側に前方偏位(軽度)

これにより、半膜様筋の停止腱が引き伸ばされ、
反回枝・関節包付着部を含めた層構造的な伸張刺激を得ることができます。

この手技は、半膜様筋の滑走性を確認するうえでも有効であり、
特に膝後内側の拘縮や屈曲制限のある症例で臨床的意義が高い評価法です。


臨床での触診と収縮確認

  • 膝屈曲位で、膝後内側のやや深層を触診すると、
     幅広い板状の腱として半膜様筋を確認できる。
  • 膝屈曲動作時に脛骨内側顆の後方へ押し出すような張力を感じる場合、
     半膜様筋が主に働いていると判断できる。
  • 内旋動作を軽く加えると収縮がより明瞭となる。

触診時には、隣接する半腱様筋腱(索状構造)やMCLとの区別が重要です。


臨床的意義 ― “強さ”と“制動”のバランスをとる筋

半膜様筋は強力な屈筋である一方で、
膝後内側の構造的安定化にも関与する“動的制動筋”です。

このため、

  • 過緊張では後内側拘縮や屈曲制限、
  • 弱化では膝後方不安定や半月板前方移動
    を引き起こす可能性があります。

理学療法では、過度なストレッチだけでなく、適切な収縮誘導と滑走性改善が求められます。
特に、鵞足部痛や内側半月板損傷の症例では、
半膜様筋の働きが疼痛や機能低下の背景因子となっている場合が多いです。


まとめ:半膜様筋は“膝の後内側ガードマン”

  • 半膜様筋は膝屈曲90°で最も強力な屈筋
  • 内側半月板後角の牽引・関節包の安定化に関与
  • 後斜靱帯(POL)と連動し膝後内側の安定性を確保
  • 選択的伸張には「腓骨の内側前方偏位」を加える

つまり、半膜様筋は動作時の“主動筋”であると同時に、
静的安定を補う“ガードマン”としての役割を持つ筋です。

その走行と付着範囲を理解し、層構造的な機能連鎖の中で評価・治療を行うことが、
膝内側痛や屈曲制限の根本改善につながります。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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