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半膜様筋腱とSTB(半膜様筋-TCL滑液包)の滑走性と摩擦機構|膝伸展位での疼痛発生メカニズムを解説

taka
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半膜様筋腱とSTBの関係 ― 滑走による摩擦緩衝機構

半膜様筋腱(Semimembranosus tendon)は、膝後内側で**MCL(内側側副靱帯)深層およびSTB(Semimembranosus-TCL Bursa)**と隣接しながら走行します。
この部位は、膝の屈伸運動に伴い絶えず滑走を繰り返す構造であり、動的安定化と摩擦緩衝を担っています(C43)。

STBは、半膜様筋腱と脛骨・MCLの間に位置する滑液包で、
膝関節運動に伴う摩擦刺激を緩和し、腱や靱帯の損傷を防ぐ“クッション構造”として機能します。


屈曲位における滑走性 ― 摩擦の少ない「逃避機構」

膝関節を屈曲すると、STBは関節内に引き込まれるように移動し、
半膜様筋腱はその上を滑走して「逃避位」をとります。

このとき半膜様筋腱は、広い腱膜面から離開するように動くため、
摩擦刺激はほとんど発生しません。

さらに、膝屈曲に伴ってMCL(特にAOL:Anterior Oblique Ligament)は適度に緊張しますが、
半膜様筋腱自体はやや後方に逃げる方向へ変位します。

この「緊張筋と逃避筋の相互関係」により、
膝屈曲位では後内側構造の摩擦が最小限に抑えられています。

ポイント
膝屈曲位では、半膜様筋腱はMCL・STBから“離開”するため摩擦が起きにくい。
これが膝後内側の滑走性を維持する基本メカニズムである。


伸展位での滑走性低下 ― 摩擦刺激の発生メカニズム

一方で、膝関節を伸展位にすると状況は一変します。

  • STBの深層が関節内に入り込み、
  • 半膜様筋腱が脛骨近位後面部に密着して移動し、
  • 腱膜面とSTB、さらにMCLとの接触面積が増大します。

結果として、摩擦刺激が生じやすくなるのです。

この状態では、半膜様筋腱とMCLが直接的に触れ合う場面も多く、
STBの滑液包構造が摩擦を緩衝する“最終的なバッファー”として働きます。

🩺 臨床的意義
膝伸展位での膝後内側痛は、STB深層の摩擦刺激または滑液包炎が原因となることが多い。
特にOA膝ではこの滑走機構が破綻しやすい。


STBが果たす「動的クッション」としての役割

STB(Semimembranosus-TCL Bursa)は、
膝関節屈伸時の摩擦を動的に吸収する滑液包構造です。

  • 屈曲時:関節内へ引き込まれ、摩擦を回避
  • 伸展時:半膜様筋腱と脛骨後面の間で摩擦を吸収

この二重機構により、STBは膝後内側の運動時摩擦を最小化しています。

ただし、半膜様筋やMCLに機能不全があると、この緩衝機構が破綻します。


滑走障害を起こす3つの要因

膝後内側部の疼痛を引き起こす原因として、
以下のような滑走障害因子が関与することが知られています。

① 半膜様筋の短縮

ハムストリングス全体の柔軟性低下により、膝伸展位で腱が過緊張。
結果として、MCLおよびSTBとの摩擦が増大します。

② MCLの滑走障害

内側側副靱帯(特にAOL部)の滑走制限があると、
屈伸時に腱と靱帯が擦れ合い、摩擦性炎症を生じやすくなります。

③ 線維鞘やSTBの瘢痕化

外傷・炎症後に滑液包壁や線維鞘が硬化すると、
半膜様筋腱の滑走が制限され、屈伸時に引っ掛かり感や疼痛を伴うようになります。

⚠️ 注意
これらが複合すると、STBへの摩擦刺激が慢性化し、
滑液包炎やSTB内圧上昇を引き起こすことがある。


臨床的評価のポイント

1. 疼痛部位の確認

  • 膝内側後方〜MCL後縁付近に圧痛があれば、STB炎を疑う。
  • 鵞足包炎よりもやや近位・後方寄りに位置する。

2. 動作時疼痛の特徴

  • 膝伸展動作または荷重位で痛みが増悪
  • 屈曲位では疼痛が軽減
    この場合、伸展位での摩擦刺激が関与している可能性が高い。

3. 画像評価

超音波画像では、膝内側後方2〜3cm部に滑液包の肥厚や液貯留が確認できる。
動態観察で腱滑走の“引っかかり”が見える場合、滑走障害の診断に有効。


治療・介入の方向性

  1. 半膜様筋・MCL間の層間モビライゼーション
     → 摩擦面の滑走性を改善し、STBへの負担を軽減。
  2. ハムストリングスの柔軟性改善
     → 半膜様筋短縮を抑え、腱の逃避性を回復。
  3. 動作修正(膝伸展時の過伸展抑制)
     → 立位や歩行での伸展終末位ストレスを減らす。
  4. 超音波ガイド下の滑走訓練
     → 動的評価下で、半膜様筋腱の滑走をモニタリングしながら運動療法を実施。

まとめ:半膜様筋腱とSTBは“動く中で膝を守るクッション”

  • 屈曲時:半膜様筋腱は逃避位をとり、摩擦は最小限
  • 伸展時:STB深層が関節内に入り込み、摩擦を吸収
  • 短縮や瘢痕化により滑走性が損なわれると、疼痛の引き金に

つまり、半膜様筋腱とSTBは、膝関節屈伸に伴う動的な滑走クッション機構です。
この構造の理解は、膝後内側部痛の鑑別診断や介入戦略を立てるうえで非常に重要です。

膝伸展位で疼痛が出現する症例では、STB深層の滑走性低下に着目し、
筋・靱帯・滑液包の層構造を意識した治療を行うことが効果的です。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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