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鵞足腱の偏位が引き起こす半膜様筋腱炎のメカニズム|層構造から理解する滑走障害の連鎖

taka
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半膜様筋腱炎と鵞足腱の位置関係を理解する

半膜様筋腱障害(Semimembranosus tendinopathy)は、膝後内側部痛の原因の一つとして臨床でよく遭遇します。
一見、鵞足炎とは別病態のように思われがちですが、両者は解剖学的にも機能的にも密接な関係にあります。

鵞足腱は、縫工筋・薄筋・半腱様筋の3筋腱が脛骨内側上部で集合して形成される構造であり、
この鵞足筋群と半膜様筋腱は同一層を走行する隣接関係にあります(C44)。

そのため、鵞足腱の滑走障害や偏位が起きると、
半膜様筋腱にも摩擦刺激が加わり、腱炎が併発することが少なくありません。


解剖学的構造 ― 半膜様筋腱と鵞足腱の層関係

膝内側の腱構造を前後関係で見ると、以下のように配置されています。

筋腱解剖学的位置関係
表層縫工筋腱最前方に位置し皮下に近い
中間層薄筋腱・半腱様筋腱鵞足部を構成する主層
深層半膜様筋腱MCL深層・POLと隣接

このように、半膜様筋腱は鵞足腱群と同層またはやや深層を走行しており、
膝関節の屈伸運動に伴って、これらの腱が相互に滑走する構造を形成しています。

ポイント
鵞足腱の滑走異常(偏位・癒着)が生じると、
その同層である半膜様筋腱も二次的な摩擦刺激を受けやすくなる。


鵞足腱偏位による半膜様筋腱炎の発症メカニズム

臨床で観察される半膜様筋腱炎の多くは、膝伸展位での圧痛を特徴とします。
これは、膝伸展に伴う腱の張力と滑走方向の変化によって摩擦が発生するためです。

▶ メカニズムの流れ

  1. 膝関節伸展時に、鵞足腱(特に半腱様筋腱)が前方方向へ移動
  2. 半膜様筋腱も同時に緊張し、外方へ偏位
  3. 結果として、半膜様筋腱が半腱様筋腱と接触し摩擦刺激を受ける
  4. この摩擦が繰り返されることで、半膜様筋腱周囲に炎症性変化が生じる

この機構により、鵞足腱群の滑走障害が半膜様筋腱炎の二次的誘発因子となるのです。


鵞足炎と半膜様筋腱炎がリンクする理由

両者の共通点は、「膝内側後方で滑走する腱群の摩擦障害」という点にあります。

比較項目鵞足炎半膜様筋腱炎
主な関与筋縫工筋・薄筋・半腱様筋半膜様筋
疼痛部位膝内側下部(脛骨近位内側)膝内側後方(MCL深層付近)
発症動作階段昇降・膝伸展・歩行立脚期膝伸展位・下肢荷重・立ち上がり動作
原因機序鵞足腱滑走障害鵞足腱偏位による摩擦刺激
臨床的特徴鵞足部圧痛・滑走制限後内側圧痛・伸展位痛

このように、鵞足炎が滑走障害の“起点”となり、
半膜様筋腱炎がその波及病変
として出現するケースが臨床では非常に多いです。


膝伸展位での偏位と摩擦刺激

膝関節を伸展すると、鵞足腱および半膜様筋腱はともに緊張しますが、
半膜様筋腱はその走行の特徴から外方へ偏位しやすい構造を持ちます。

この偏位によって、半膜様筋腱と半腱様筋腱が接触しやすくなり、摩擦が発生します。
特に半膜様筋が短縮している場合や、腱滑走性が低下している場合、
この摩擦刺激は増大し、**炎症性腱障害(tendinitis)**へ進展することがあります。

⚠️ 臨床所見の特徴

  • 膝伸展位での後内側部圧痛
  • 軽度屈曲で痛みが減少
  • 鵞足腱と半膜様筋腱の滑走制限を伴う

発症リスクを高める要因

半膜様筋腱炎は、単なるオーバーユースではなく、
隣接腱との滑走不全や筋緊張不均衡が背景にあります。

主な要因は以下の通りです。

  1. 半膜様筋の短縮・過緊張
     → 伸展時に腱が外方偏位し、摩擦刺激が増加。
  2. 鵞足腱群の滑走障害
     → 薄筋・半腱様筋の癒着により、半膜様筋腱との層間摩擦が上昇。
  3. MCLやPOL周囲の線維化・癒着
     → 腱の滑走経路が変化し、摩擦点が拡大。
  4. 股関節外旋・脛骨内旋アライメント
     → 鵞足腱の走行軌跡が変位し、半膜様筋との接触角度が増加。

予防と治療アプローチ

① 鵞足筋群の滑走改善

  • 鵞足部層間のモビライゼーション
  • 足関節背屈位での動的ストレッチ
    → 薄筋・半腱様筋腱の柔軟性を高め、半膜様筋腱との干渉を軽減。

② 半膜様筋の柔軟性回復

  • 股関節屈曲+膝伸展ストレッチ
  • 立脚期での過伸展抑制トレーニング
    → 外方偏位を防ぎ、伸展時の摩擦刺激を軽減。

③ 局所評価と疼痛制御

  • エコーで鵞足腱・半膜様筋腱の動態観察
  • 圧痛点への軽度マニュアル刺激で滑走性改善
    → 滑液包炎・腱炎の早期改善に効果的。

まとめ:鵞足腱と半膜様筋腱は“層構造でつながる病態”

  • 半膜様筋腱は鵞足腱群(縫工筋・薄筋・半腱様筋)と同層に位置し、滑走連鎖を形成
  • 鵞足腱の偏位や滑走障害が、半膜様筋腱炎を二次的に誘発
  • 膝伸展位での摩擦刺激が疼痛の主因
  • 予防には鵞足筋群と半膜様筋の柔軟性・滑走性の確保が不可欠

鵞足炎と半膜様筋腱炎は、独立した疾患ではなく「同一層内の滑走障害による連鎖病態」と捉えるのが臨床的に妥当です。
疼痛の評価では、腱単体ではなく層構造全体の滑走メカニズムを意識することが重要です。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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