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半膜様筋腱の解剖とその機能的意義|AA・DAの構造からみる膝後内側安定化機構

taka
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半膜様筋腱とは ― 膝後内側を支える多枝性構造

半膜様筋腱(Semimembranosus tendon)は、ハムストリングスの一部であり、
**膝後内側(posteromedial region)**における動的・静的安定化に深く関与しています。

その停止部は単一ではなく、複数の枝を形成して広範囲に分岐して付着する点が最大の特徴です(C39)。
これらの枝は、膝関節の後内側安定性を高めるとともに、膝運動時の関節包や半月板の滑走制御にも関与しています。


半膜様筋腱の主な構成と走行

半膜様筋腱は、坐骨結節から起始し、膝後内側で**複数の腱枝(arms)**に分岐して停止します。
代表的な2本の腱枝は、**AA(Anterior Arm)DA(Direct Arm)**です。

▶ AA(Anterior Arm)

  • MCL(内側側副靱帯)の深層とPOL(Posterior Oblique Ligament)の間を走行
  • 半膜様筋腱の前方に広がって付着する。
  • 関節包の前内側方向への張力伝達を担い、膝屈曲時の前後動安定性に寄与。

▶ DA(Direct Arm)

  • 脛骨内側顆に直接付着する枝。
  • 最も強靭で、膝屈曲動作時における脛骨後方移動の制御に関与。
  • 静的安定性を高める主構造として機能。

半膜様筋腱が付着する周囲構造

半膜様筋腱はAA・DA以外にも、多方向へ枝を延ばし、膝関節の深層支持機構を形成しています。

構成要素付着・連結部位主な機能的役割
内側半月板(MM)後角部へ線維枝を送る半月板の後方牽引・位置安定化
POL(後斜靱帯)連続的に連結後内側安定化の中心構造
OPL(斜膝窩靱帯)膝後面を横断伸展制動・外旋抑制
腓腹筋内側頭腱後方浅層で連結動的安定化と滑走補助
MCL深層前方枝(AA)が介在屈曲中間位での内外反安定性補助

このように半膜様筋腱は、筋性要素と靱帯性要素の橋渡し的存在として機能し、
膝の「動きながら安定する」機構を支えています。


半膜様筋腱がもたらす膝関節の安定性

① 動的安定化機構

半膜様筋腱が収縮すると、POLや関節包に張力が伝達され、
膝後内側部が後方から引き締まるように安定します。

また、半膜様筋は内側半月板を後方に牽引し、
膝屈曲時に半月板が挟み込まれるのを防ぐ“動的保護作用”を発揮します。

② 静的安定化機構

DA・AAを含む多枝構造は、膝伸展位でも関節包の張力保持に寄与し、
内外反ストレスや外旋ストレスに抵抗する働きを持ちます。

これにより、膝が屈曲・伸展・荷重といった多方向の運動を行う中でも、
後内側部の関節安定性を維持することができます。


二足歩行における進化的意義

半膜様筋腱の多枝性構造は、ヒトの二足歩行に最適化された構造とも言えます。
その理由は、立脚期における「動的安定」と「衝撃吸収」を両立するためです。

  • 屈曲位から伸展位への移行で、膝後内側のテンションが連続的に変化
  • 半膜様筋腱が関節包を介して荷重線のぶれを制御
  • 前方枝(AA)による関節包前方牽引で、過伸展を防止

これにより、ヒトは膝屈伸中でも関節包の緩みを最小化し、安定した立脚・推進を実現しています。


半膜様筋腱と膝関節の不安定性の関係

膝関節屈曲位(特に荷重下)では、後内側の静的支持機構が弱まるため、
半膜様筋腱の安定化作用がより重要になります。

しかし、以下のような条件では安定性が低下します。

  • 半膜様筋腱の筋力低下・滑走障害
  • POLやOPLの線維性癒着・弛緩
  • 鵞足筋群との協調性低下

これらが起こると、歩行時に立脚肢の膝屈曲範囲が広がり、
荷重線が後方偏位して膝内反+回旋不安定性を誘発します。

結果として、膝OAや半月板損傷などの二次的病態へと進展するリスクが高まります。


臨床的視点:半膜様筋腱の評価とリハビリ

① 触診のポイント

  • 膝後内側を屈曲90°位で触診すると、幅広い板状の腱として確認可能。
  • 細い索状の半腱様筋腱との区別に注意。
  • 内側顆後方で“膜状の広がり”を触れると半膜様筋腱である。

② 評価の視点

  • 膝屈曲90°での屈曲筋力低下 → 半膜様筋機能低下を示唆
  • 内旋動作の不安定性 → 半膜様筋・POL連動の滑走不全
  • 内側後方の圧痛 → POLまたはAA分枝の滑走制限を疑う

③ リハビリの方向性

  • 股関節伸展+膝屈曲トレーニングで半膜様筋を動的に強化
  • 半膜様筋腱とPOL間の層間モビライゼーションで滑走改善
  • 歩行トレーニングでは立脚期の膝過屈曲抑制を意識

まとめ:半膜様筋腱は“膝後内側の多層連結ネットワーク”

  • AAはMCL深層〜POL間を走行し、動的安定をサポート
  • DAは脛骨内側顆に直接付着し、静的制動を担う
  • MM・POL・OPL・腓腹筋腱との連結で後内側安定化を形成
  • 筋力低下や滑走障害は膝OA・不安定性のリスク要因

半膜様筋腱は、膝関節の中で最も構造的に複雑かつ機能的に重要な腱の一つです。
その走行と付着を理解することは、膝関節疾患の評価・治療・動作再建の基礎となります。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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