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半膜様筋腱溝(AA走行)の形態と滑液包の臨床的意義|SGB・STB・ベイカー嚢腫の関連を理解する

taka
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半膜様筋腱溝(AA走行)とは ― 膝後内側の動的滑走構造

半膜様筋腱(Semimembranosus tendon)は、膝後内側に広く分岐して停止する強靭な腱構造です。
その中でも**AA(Anterior Arm)は、膝屈伸運動時に半膜様筋腱溝(tendon groove)**の中を前後に滑動し、膝の動的安定性を支えています。

この溝構造は、半膜様筋の滑走を円滑にするための“腱のレール”として機能しますが、
摩擦や変形が生じると炎症性病変の起点となることがあります。

特に膝OA(変形性膝関節症)など加齢変化を伴う症例では、
腱溝や滑液包の構造変化によって疼痛や膝窩部の腫脹を引き起こすケースが少なくありません(C40)。


AA(Anterior Arm)の走行と機能

AAは、半膜様筋腱から分岐してMCL(内側側副靱帯)の深層とPOL(後斜靱帯)の間を走行し、膝関節包の前内側方向に付着します。

この構造により、AAは以下の2つの役割を持ちます。

  1. 膝屈伸時の滑走性の確保
    → 半膜様筋腱が関節包やMCLと擦れないように摩擦を分散する。
  2. 動的安定化の補助
    → 半膜様筋の収縮力を前方へ伝達し、膝伸展終末での安定性を支える。

一方で、このAAが走行する「半膜様筋腱溝(Semimembranosus groove)」では、
滑走性が損なわれると摩擦刺激が増大し、変形や炎症を引き起こします。


膝OAと半膜様筋腱溝変形の関係

膝OA(変形性膝関節症)患者では、関節面の変形や骨棘形成により腱溝の形態が変化し、
AAの滑走経路に摩擦が生じやすくなると報告されています。

▶ 摩擦・炎症発生のメカニズム

  1. 骨形状の変化 → 腱溝の狭小化・変形
  2. AA滑走時の摩擦増加 → 滑液包への刺激
  3. 滑膜反応・炎症性変化 → 滑液包炎・嚢腫形成

この摩擦刺激は体質や骨配列(脛骨内反や後傾角の変化)にも依存するため、
同じOAでも膝後内側に痛みを訴える症例は、AA走行部の滑走障害を伴っていることが多いのです。


半膜様筋腱溝に存在する滑液包構造

半膜様筋腱溝周囲には、摩擦を軽減するための2つの主要な滑液包が存在します。
それが SGB(Semimembranosus-Gastrocnemius Bursa)STB(Semimembranosus-TCL Bursa) です。


▶ 1. SGB(半膜様筋‐腓腹筋滑液包)

  • 位置:半膜様筋腱と腓腹筋内側頭腱の間隙
  • 役割:膝屈曲時の摩擦緩和・緩衝作用
  • 臨床的特徴:炎症性腫脹が進行すると「ベイカー嚢腫(Baker’s cyst)」として膝窩部に出現

ベイカー嚢腫は、SGBの滑液包炎が拡張した状態であり、
中高齢者の膝窩部痛や腫脹の主要因として知られています。

半膜様筋や腓腹筋の過緊張・膝OAによる滑膜炎が背景に存在することが多く、
エコー観察では膝窩部の低エコー性腫瘤として確認されます。


▶ 2. STB(半膜様筋‐TCL滑液包)

  • 位置:半膜様筋と脛骨・MCLの間隙(C型状または直行型)
  • 深層:半膜様筋と脛骨との間
  • 表層:半膜様筋とMCL(内側側副靱帯)との間
  • 位置目安:内側側副靱帯前縁中央部の後方2cm付近から遠位2cm範囲

このSTBは、AA走行と密接に関係しており、
膝の屈伸に伴って半膜様筋腱溝を滑走するAAの摩擦を吸収する緩衝機構として働きます。

したがって、膝内側後方に圧痛があり、
MCL遠位よりやや近位で痛みを訴える場合、
STBまたは腱溝の滑液包炎を疑う必要があります。


STBと鵞足包(Pes Anserine Bursa)の鑑別

鵞足包炎(Pes Anserine Bursitis)は、STB炎と混同されやすい病態です。
しかし、位置関係と疼痛部位の違いを理解しておくと明確に区別できます。

比較項目STB鵞足包
解剖学的位置MCL後方2cm〜遠位2cmMCL内方・遠位約5cm
関連筋半膜様筋縫工筋・薄筋・半腱様筋
疼痛部位膝内側後方部膝内側前下方部
原因AA摩擦・滑液包炎鵞足筋滑走障害
主訴膝内側後方の圧痛・張り感膝内側下部の局所痛・階段痛

この鑑別は理学所見だけでなく、エコーによる滑液包の局在評価でも確認できます。


臨床的意義 ― 「滑走系」としてのAA・腱溝の理解

半膜様筋腱溝(AA走行部)は、膝後内側の**滑走系(gliding system)**として非常に重要です。
この部位の滑走障害が起きると、以下のような臨床症状が現れます。

  • 膝内側後方〜膝窩部にかけての鈍痛・張り感
  • 屈曲初期や伸展終末での“ひっかかり感”
  • 長時間の立位や階段動作での膝裏違和感
  • 超音波画像で滑液包の肥厚・腫脹

特にOA膝や中高齢者において、膝窩部痛を単なる“関節痛”として片付けると、
STBやSGBの滑液包炎を見落とすことになります。


まとめ:半膜様筋腱溝は“膝後内側の滑走クッション”

  • **AA(Anterior Arm)**は膝屈伸に伴い腱溝内を滑走する構造
  • SGB(半膜様筋‐腓腹筋滑液包)はベイカー嚢腫の発生母体
  • STB(半膜様筋‐TCL滑液包)はAA走行部の摩擦を緩和する緩衝構造
  • 膝OAでは腱溝変形により摩擦・炎症が発生しやすい
  • 圧痛部位の違いで鵞足包炎との鑑別が可能

半膜様筋腱溝は、膝後内側の滑走と安定性を支える“動的クッション”です。
その滑走機構や滑液包構造を理解することで、
膝窩部痛・内側後方痛の正確な鑑別と治療戦略が立てやすくなります。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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