まずは足元の問題から考えよ──新渡戸稲造『世渡りの道』に学ぶ、人生の目的に迷ったときの道しるべ
抽象的に悩んでも、人生は動かない
新渡戸稲造は『世渡りの道』の中でこう語ります。
「青年時代には、『人生の目的は何か』などといって悩んだりするものだ。しかし、こうした問題は抽象的に考えても解決するものではない。」
若いころ、誰もが一度は考える問い——
「人生の目的とは何か」「自分は何のために生きるのか」。
しかし新渡戸は、そのような大きな問いを頭の中だけでこね回しても、答えは出ないと言います。
なぜなら、人生の意味は考えるものではなく、行動の中で見つかるものだからです。
「何をしたいか」「何をすれば満足か」から始める
「自分は何をしたいのか、何をしたら満足するのかというように、より具体的に考えていったほうがいい。」
新渡戸は、「目的」という抽象的な言葉を、もっと身近な言葉に置き換えています。
それが、「したいこと」「満足すること」。
たとえば——
- 誰かの役に立つと嬉しい
- ものを作るときに充実感を感じる
- 困っている人を助けたいと思う
こうした小さな「心の動き」を丁寧に観察することで、自分の軸が見えてくるのです。
大きな目標は、こうした日常の感情の積み重ねから生まれます。
人生の問題は「遠く」より「近く」から解く
「物事というのは、自分に身近な問題から考えていって、より遠くに向かっていくほうが解決しやすいものだ。」
新渡戸は、「足元を見よ」と教えています。
人生を一気に設計しようとしても、道は見えません。
まずはいま目の前にある課題に取り組むことから始めるのが賢明なのです。
たとえば:
- 進路で悩んでいるなら、「何が得意か」「どんな環境が合うか」を考える
- 仕事に迷っているなら、「いまの自分ができる改善は何か」を探す
- 人生に迷うときほど、「今日の一日をどう生きるか」を意識する
遠くの理想を追う前に、近くの現実を整える。
それが、結果として“より遠く”へ進むための道になります。
「足元」を見つめることは、逃げではない
「今できることに集中せよ」と聞くと、「それは目先のことにこだわる小さな生き方ではないか」と思う人もいるかもしれません。
しかし新渡戸の意図はまったく逆です。
大きな理想を実現するには、まず基礎を固める必要があります。
建物が土台なしには立たないように、人生も足元を無視しては積み上がりません。
“遠い目的に焦がれることより、今日という一日を真剣に生きること。”
これこそが、新渡戸の説く「現実的理想主義」です。
現代人が陥る「抽象的思考の罠」
SNSや情報過多の時代、私たちは“理想論”に簡単に触れられます。
「やりがいある仕事を」「夢を追え」「人生の意味を考えよ」——
しかし、これらの言葉は人を焦らせるだけで、具体的な行動には結びつきません。
新渡戸の教えは、こうした“思索の迷路”に陥った現代人への処方箋でもあります。
「考えるよりも、まず動け。遠くを見すぎず、今できることを丁寧にやれ。」
それこそが、真の修養であり、確実な人生の歩み方なのです。
抽象から具体へ——人生を動かす3つのステップ
新渡戸稲造の教えを現代風に整理すると、次の3ステップにまとめられます。
① 大きな問いを「自分の言葉」に変える
「人生の目的」ではなく、「自分は何をしているとき心が満たされるか」と問う。
② 足元の問題に焦点を当てる
遠い理想よりも、「今日、何を改善できるか」「誰に感謝できるか」に意識を向ける。
③ 小さな行動を積み重ねる
一歩踏み出せば、次の道が見える。
行動の中でしか、人生の答えは見つからない。
まとめ:大きな目的より、小さな実践を
『世渡りの道』のこの章が伝えるメッセージは、次の3つに集約されます。
- 人生の目的は、抽象的に悩んでも見つからない。
- まずは身近なこと、足元の課題から考えよ。
- 小さな実践の積み重ねが、やがて大きな目的を導く。
つまり、「人生の意味を考えること」は悪いことではありませんが、
それを行動に変えて初めて意味を持つのです。
最後に
新渡戸稲造の言葉を現代風に言えば、こうなります。
「人生の目的を探すな。今できることを積み重ねよ。」
足元を見つめることは、地味なようでいて最も確かな一歩です。
その小さな一歩が、やがてあなたの人生を確実に前進させる“道”となるでしょう。
