世界では毎日のように悲しい出来事や惨劇が報道されています。自然災害、事故、戦争…。SNSを開けば、遠く離れた国の出来事も瞬時に私たちの目に飛び込んできます。そのとき、胸を痛めたり「気の毒だ」と感じることは、人として自然な反応でしょう。しかし、そうした感情が積み重なると、心は次第に疲弊し、無力感さえ覚えてしまいます。
この問題に対して古代ギリシャのストア派哲学者エピクテトスは、次のように述べています。
「どんな知らせも君の理性的判断力とは何の関係もないのだ。…誰かが死んだという知らせを届けに来る者はいるだろう――そうだとしても、君に何の関係がある?」
一見冷たい言葉に思えるかもしれません。しかし、エピクテトスが伝えたかったのは「理性を働かせて、自分ができることに集中せよ」という姿勢です。つまり、ただ同情して悲しむだけで行動に移せないのであれば、むしろ自分の務めに戻るべきだ、ということです。
ニュースに心を奪われる危険性
現代は情報があまりに早く広がる時代です。世界の反対側で起こった出来事にすら、私たちはすぐに触れることができます。その結果、自分には直接関係のない事柄にまで心を乱され、日常の仕事や人間関係に集中できなくなるケースも少なくありません。
同情の気持ちは尊いものですが、それが自分の行動や生活の基盤を崩してしまうと、本末転倒です。ストア派が教えてくれるのは「関心を持つな」という冷淡さではなく、「自分の理性で判断し、必要なら行動を起こし、そうでないなら務めに戻る」という態度なのです。
ストア派的にできること
- 自分にできる範囲を見極める
例えば、被災地の支援に募金する、信頼できる団体を通じて寄付する。これらは理性に基づいた具体的な行動です。 - 同情だけで終わらせない
ただ「かわいそう」と言うだけでは、相手にとっても自分にとっても何の意味もありません。行動できないならば、そのエネルギーを自分や家族、社会に向けるほうが建設的です。 - 自分の務めを果たす
仕事に取り組む、家庭を大切にする、友人を支える――これらは小さなようでいて、確実に自分の周囲をよくする行為です。世界全体を変えることはできなくても、自分の半径数メートルの世界を整えることは誰にでもできます。
心の平静を守るために
大切なのは「理性を働かせること」。感情に振り回されず、冷静に「自分にできること」と「できないこと」を切り分けることで、心の平静を保つことができます。これは自己啓発だけでなく、日常のメンタルケアにも役立つ考え方です。
エピクテトスの言葉は、現代の情報過多な社会においてこそ響くのではないでしょうか。ニュースを見て心が揺さぶられたとき、「自分にできることはあるか?」と一度立ち止まって考えてみてください。そして行動できるなら行動し、そうでないなら自分の務めに集中する。それがストア派的な生き方なのです。
まとめ
世界のニュースに心を痛めることは自然な反応です。しかし、同情するだけで終わるのではなく、理性に基づき「自分にできること」に集中することが大切です。もし何もできないなら、自分自身や家族、身近な人々に目を向けましょう。ストア派哲学は、心を乱されやすい現代にこそ必要な「心の軸」を与えてくれます。