「宇宙の創造者は、善く生きるべしと定めたのであって、贅沢に生きるべしとは言わなかった」――セネカの『倫理書簡集』にある言葉です。善い人生に必要なものはすでに自然が目の前に用意してくれている。しかし、贅沢を求めるなら、苦痛や不安を背負う覚悟が必要になる。セネカはそう私たちに警告します。
Contents
富豪でありながらストア派
セネカはローマ屈指の大富豪でした。そのため「巨万の富を持ちながら清貧を説く偽善者」と揶揄され、「ストア派大尽」と呼ばれることもありました。歴史家の中には、彼の貸付が原因でブリテンで大規模な反乱が起きたとまで記す者もいます。
それでもセネカの答えはシンプルでした。「自分は富を持っているかもしれないが、なくても構わない」。つまり、富に依存せず、またその奴隷にならなかったのです。
富の奴隷にならない
重要なのは「富を持つこと」ではなく「富に支配されないこと」です。セネカ自身、浪費家や道楽者としての悪評は立っていませんでした。彼は富を所有しながらも、それに執着せず、いつでも手放せる心構えを持っていたのです。
これは、物質主義と金銭崇拝に満ちた現代社会においても有効な処方箋です。必要もないものを得るために延々と働き続け、内面の探求を忘れてしまう――そんな生き方を避けるために、私たちは「富と距離を置く」姿勢を学ぶべきです。
現代への応用
- 収入が増えても生活水準を無闇に上げない → 豊かさより安らぎを優先する。
- 必要以上の消費を避ける → 所有物は少ないほうが心は軽くなる。
- 富を目的にしない → 富はあくまで手段であり、人生の中心には美徳や人間関係を置く。
まとめ
セネカの教えは「富を否定する」ものではなく、「富に支配されるな」というメッセージです。巨額の富を持ちながらも清廉に生きようとした彼の姿勢は、現代人にとっても大切な指針になります。人間はわずかなもので満足できる――その真実を忘れずに、善く生きる道を選びましょう。