「平和自体も新たな心配事を生み出す」――これはローマの哲学者セネカが『倫理書簡集』で述べた言葉です。私たちは平和や安全を求めますが、いざその状態が訪れても、心が乱れていれば安心できない。むしろ新しい恐怖や心配を生み出してしまうのです。
成功や安全は「人を変える」のではなく「本性を暴く」
古くから「お金で人は変わらない、その人の本性が現れるだけだ」と言われてきました。アメリカの伝記作家ロバート・カロも「権力とは、堕落させるものではなく、暴き出すものだ」と述べています。
これは成功についても同じです。金銭的に成功しても、社会的に成功しても、その人がもともと持っていた気質や心の習慣が表面化するだけです。
- 不安にとらわれやすい人は、成功してもますます不安を募らせる
- 他人と比べがちな人は、成功してもさらに競争心に振り回される
- 欲望に弱い人は、手に入れた富や権力をむしろ自らの首を絞める道具にしてしまう
つまり、幸運そのものは人を救わないのです。
幸運よりも「丈夫な心」を求める
セネカが強調するのは、「外的な幸運ではなく、内的な強さこそを追い求めよ」ということです。
なぜなら、心が「何にでもおびえる習慣」を持っている限り、いくら富や権力を得ても、かえって心配事は増えるからです。持つものが増えれば増えるほど、「失う恐怖」が心を支配してしまうのです。
したがって、私たちが願うべきは「成功」ではなく、「成功しても不安に負けない丈夫な心」です。
丈夫な心を築くための実践法
- 日々の小さな恐怖に向き合う
たとえば、批判されることを恐れるのではなく、あえて意見を発信する。小さな挑戦を積み重ねることで、心は徐々に恐怖に強くなります。 - 失うことを想定する訓練
ストア派が勧めた「プレモーテーション(悪い事態を前もって想定する)」を実践してみましょう。「もし仕事を失ったら」「もし財産をなくしたら」と考えることで、不測の事態にも備えやすくなります。 - 行動と考えを「心のブロック」として積み重ねる
セネカの言葉にならえば、ひとつひとつの行動や思考を「丈夫な心を築くためのブロック」と見なし、毎日積み重ねていくことが大切です。たとえ小さなものであっても、積み上がれば強固な基盤となります。
成功そのものはゴールではない
私たちが「成功」を夢見るとき、多くの場合「安心や自由」を求めています。しかし実際には、安心や自由は外的条件からは生まれません。
- 成功しても不安に駆られる人はいる
- 富を得ても心が満たされない人はいる
- 安全な環境にいても恐怖から逃れられない人はいる
本当の意味での自由や安心は、「丈夫な心」からしか生まれません。
まとめ
- 成功や安全は人を変えるのではなく、本性を暴き出す
- 恐怖や依存の習慣を持つ人は、成功しても不安に支配される
- 願うべきは「幸運」ではなく、「丈夫な心」
- 日々の思考と行動を積み重ねることで、強い心の砦を築ける
セネカの教えは、私たちに「成功そのものを追い求めるのではなく、成功しても動じない心を育てよ」と伝えています。今日からの一歩一歩を「心のブロック」として積み重ね、揺るがない精神を築いていきましょう。