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足根管症候群(Tarsal Tunnel Syndrome, TTS)とは?
足根管症候群は、**後脛骨神経(posterior tibial nerve)**やその分枝が足根管内で圧迫されることで生じる絞扼性ニューロパチーです。しばしば手首の手根管症候群と比較されますが、発生頻度はそれほど高くありません。診断は主に臨床所見に基づきますが、必要に応じて神経伝導検査や画像診断が行われます。
足根管の解剖学的構造
足根管は内果(medial malleolus)後下方に位置する線維骨性の狭い空間で、屋根は屈筋支帯(flexor retinaculum)、床は脛骨・距骨・踵骨の内側面で形成されています。
足根管内を走行する主な構造物は以下のとおりです。
- 後脛骨筋腱(tibialis posterior tendon)
- 長趾屈筋腱(flexor digitorum longus tendon)
- 後脛骨動脈・静脈(posterior tibial artery and vein)
- 後脛骨神経(posterior tibial nerve, L4-S3)
- 長母趾屈筋腱(flexor hallucis longus tendon)
走行順序(内側から外側へ)
- 後脛骨筋腱
- 長趾屈筋腱
- 後脛骨動静脈
- 後脛骨神経
- 長母趾屈筋腱
後脛骨神経の分岐と支配
後脛骨神経は足根管内で内側足底神経と外側足底神経に分岐します(約5%はトンネルの手前で分岐)。
内側足底神経(medial plantar nerve)
- 感覚:足底内側半分、第1〜第3趾の内側、および第4趾内側
- 運動:母趾外転筋、短母趾屈筋、短趾屈筋、第1虫様筋
外側足底神経(lateral plantar nerve)
- 感覚:踵外側と足底外側
- 運動:小趾外転筋、短趾屈筋、方形筋など
踵枝神経(medial calcaneal nerve)
- 多くは足根管の手前で分岐
- 踵骨後内側部の感覚を支配
- 25%の症例で、外側足底神経から出たり屈筋支帯を貫通する走行をとる
臨床的意義
足根管症候群では、足底のしびれ、灼熱痛、踵の感覚異常などが出現します。特に内側足底神経・外側足底神経の分布領域の感覚障害が特徴的です。
また、足底筋群の支配障害が進行すると、足趾の把持力低下や足底筋の萎縮がみられる場合もあります。
まとめ
- 足根管は内果後下方にある狭い線維骨性トンネル
- 重要構造物:後脛骨筋腱・長趾屈筋腱・長母趾屈筋腱・後脛骨動静脈・後脛骨神経
- 後脛骨神経は足根管内で内側足底神経・外側足底神経に分岐し、それぞれ感覚・運動を司る
- 圧迫によって足底部のしびれや痛みを生じるのが足根管症候群
足根管症候群の理解には、解剖学的知識が不可欠です。臨床で遭遇したときは、この「狭いトンネルに走行する神経と血管の関係」を思い出すと診断や治療方針の手がかりになるでしょう。