政治・経済

MMTが示す「税の役割」と悪い税制とは

taka

租税は“財源”ではなく、経済を動かす仕組み

MMTが示す租税の本質は、「貨幣を動かす」ための制度的な仕組みである。不換紙幣が価値を持つのは、国家がそれを納税手段として受け取るからであり、国民は納税のためにその通貨を集めようとする。
しかし、租税の役割はそれだけではない。ランダル・レイは、ビアズリー・ラムルの論文を引用し、税には4つの目的があると整理している。ここから、MMTの税制観がより立体的に見えてくる。

税の4つの目的

第一は「インフレ抑制」である。税によって購買力を吸収し、総需要を抑えることで物価上昇を防ぐ役割がある。財政支出を拡大した際、その過熱を抑えるブレーキとして機能するわけだ。
第二は「所得と富の再分配」である。累進課税により負担能力に応じて税負担を調整し、所得の偏りに伴う景気変動を吸収する働きも持つ。不況期には税収が減り、インフレ期には税収が増えるという、景気に連動した自動安定化の仕組みが働く。
第三は「望ましくない行動への抑止」。大気汚染や水質汚濁、喫煙や飲酒に対するいわゆる“悪行税(Sin Taxes)”がこれにあたる。行動のコストを引き上げることで社会的な悪影響を抑えるための税である。
第四は「受益者へのコスト負担」。高速道路の利用者がガソリン税を負担するように、特定のサービスを利用する人に、その対価を支払わせる仕組みだ。ただしラムルは、「この税が歳入確保のために必要」という考え方は時代遅れだと述べている。重要なのは、税がサービスに対する支持や負担の意識を形成する点にある。

MMTが指摘する“悪い税”とは

MMTは、経済を歪め、格差や不平等を拡大させる「悪い税」が存在すると指摘する。
その一つが「社会保障税」である。企業は従業員の社会保険料を労使折半で負担する必要があるため、500万円の年収の社員を雇う場合、実質的に580万円前後のコストがかかる。ロボットと比較すれば、人件費の負担は重く、企業は自動化を選好しやすくなる。労働者にとっても手取りが減るため、労働のインセンティブが弱まる。この構造は雇用にも競争力にも悪影響を及ぼす。
二つ目は「消費税」。生活に不可欠な消費に対して課税するため、可処分所得が低いほど負担が重くなる“逆進性”が避けられない。日常生活の質を高める行為に対して税がかかるという構造そのものを、MMTは問題視する。
三つ目が「法人税」である。法人税は企業の行動を歪め、望ましい意思決定を阻害するとされる。例えば、借入金の利息は損金算入できるため、企業は増資より借入を優先し、必要以上に債務を積み上げやすい。また、税率の低い国に拠点を移す“タックスヘイブン”現象も生まれ、雇用が国外に流出する。
さらに、税負担を避けるために経営陣が経費として不必要な支出を行うなど、本来の生産性向上とは無関係な行動を誘発する可能性がある。

税制をどう設計すべきか

MMTの視点では、税制は単なる財源確保の仕組みではない。社会が望ましい方向へ向かうように、行動を誘導する制度であるべきだとされる。
総需要の管理、所得分配の是正、環境負荷の低減、受益者の行動への責任付け。これらの視点から税制を評価すれば、消費税や社会保障税、法人税といった“悪い税”を見直す必要性が浮かび上がる。
税は国家の目的達成のための道具であり、経済や社会構造を変える力を持つ。その設計思想を変えれば、経済政策そのものの方向性も大きく転換することになるだろう。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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