『税収80兆円時代──日本の賃上げと物価高の矛盾』
税収80兆円を超えた日本の現実
新政権の発足から1か月。物価高への対策を最優先と掲げながら、生活の苦しさは和らぐ気配がない。世論調査でも最も期待されるのは経済政策と物価高対策であるにもかかわらず、実際の政策はその期待に応えているとは言いがたい。
その象徴が「2025年度税収が初の80兆円超え」というニュースである。当初見込みより約3兆円も上振れし、6年連続で過去最高を更新した。国民の負担感は単なる印象ではなく、統計の上でも裏付けられた事実である。
上振れの内訳──消費税・所得税・法人税の増加
今回の上振れの主因は、所得税が約2兆円増、消費税が6000億円増、法人税が4000億円増という構図である。物価高が続けば、消費税収が伸びるのは当然である。さらに賃上げが進んだことで所得税が増える。だが、賃金が上がっても、税で持っていかれる割合が大きければ手取りは増えず、生活は苦しくなる一方である。
政府は5%以上の賃上げを「定着させたい」と要請するが、賃上げの効果が税負担で相殺されている現状では、国民生活の改善にはつながりにくい。税収だけが伸び、家計が豊かにならない理由がここにある。
データが示す「取りすぎ」の構造
税収の長期推移を見ると、1990年と2020年では税収総額にほとんど差がない。しかし内訳は激変した。消費税は大幅に増え、その分、法人税は約6兆円減っている。企業の税負担は軽くなった一方で、消費税という形で国民に広く負担が移された。
そして近年の税収増は異常ともいえる伸び方である。わずか5年間で税収は63兆円から80兆円超へと約17兆円増えた。これは景気の好転というより、物価高と税構造の偏りによって増えた負担を示す数字である。
賃上げを妨げる税の仕組み
賃上げを本当に定着させたいなら、法人税よりも消費税の見直しが不可欠である。消費税は「粗利(売上-経費)」にかかるため、人件費の原資そのものに課税される。つまり企業が賃金を上げようとするほど負担が重くなる構造であり、これはまさに“賃上げ妨害税”といえる。
一方で法人税は、利益を人件費として支払えば課税対象から外れるため、むしろ賃上げへ促進効果がある。それにもかかわらず、政府は消費税減税を避け、賃上げだけを企業に求める。この方針では、企業が賃上げしても最終的に税で吸収され、国民の手取りは増えないままである。
経済政策の根本的な矛盾
税収が過去最高を更新し続ける一方で、国民の生活は楽になっていない。物価高と税負担の増加が重なり、賃金上昇分が相殺されているからである。にもかかわらず、政府は従来と同じ「賃上げ頼み」の政策に固執する。
今回の税収データは、その矛盾を明確に示した。賃上げと税負担が噛み合わなければ、どれだけ努力しても国民生活は改善しない。経済政策の本質が問われているといえる。
