「年収の壁」合意の裏にある罠。ミッション完了は早すぎる
「ミッションコンプリート」への違和感
臨時国会が閉幕し、国民民主党の玉木代表は「ミッションコンプリート」と高らかに宣言した。焦点となっていた「年収の壁」が、103万円から178万円へと引き上げられることで合意に至ったからだ。確かに、これまで動かなかった岩盤が動いたことは評価できるかもしれない。しかし、その内容を詳細に紐解けば、手放しで喜べるような代物ではないことが見えてくる。政治家のドヤ顔の裏に隠された、巧妙な「期限付きの飴」と「将来の負担」について冷静に見極める必要がある。
8割が恩恵を受けるという「日本の貧困」
まず注目すべきは、今回合意された基礎控除の引き上げが、2026年・27年の「2年間限定」の特例措置であるという点だ。さらに、その対象は年収665万円以下の層に限られる。「給与所得者の8割の手取りが増える」と政府や与党は胸を張るが、冷静に考えてみてほしい。それは裏を返せば、この物価高騰の中、国民の8割が年収665万円以下で生活しているという、日本の貧しさの証明に他ならない。
たった2年間の減税措置が終われば、元の木阿弥になる可能性がある。期限付きの減税を理由に、将来のローンを組むことなど誰ができようか。恒久的な財源確保や経済成長の道筋を示さず、一時的な措置でお茶を濁しているに過ぎないと言わざるを得ない。
小さな穴から始まる「増税のステルス化」
さらに警戒すべきは、2027年から予定されている実質的な「所得増税」の存在だ。壁が引き上げられて一時的に手取りが増えたとしても、別の名目で税金が増えれば、結局は「行って来い」の状態になる。
かつて「再エネ賦課金」は月額88円という微々たる金額で始まった。「環境のためなら」と国民が許容したその負担は、今や月額1700円近くにまで膨れ上がり、家計を圧迫している。最初は小さな1%の増税や負担増であっても、一度導入されれば、消費税のように徐々に税率が引き上げられていくのは歴史が証明している。今回の合意は、この将来的な負担増を隠すための「目くらまし」ではないのか。
根本解決なき「やってる感」に騙されるな
そして、働き控えの最大の原因である「社会保険料の壁(130万円の壁)」については、実質的な解決策が示されていない。所得税の壁だけを引き上げても、社会保険料の壁がそのままであれば、結局多くの人は労働時間を調整せざるを得ないのだ。「働き甲斐」を謳いながら、その阻害要因を放置するのは片手落ちである。
たった2年の特例措置と、先送りにされた本質的な問題。これで「ミッション完了」とするのはあまりに早計だ。我々は目先の数字やパフォーマンスに惑わされず、その背後にある長期的な負担と、政治の不作為を厳しく監視し続けなければならない。
