はじめに
腱障害(tendinopathy)は、米国で年間6600万件の筋骨格系損傷の45%を占め、医療費は1140億ドル以上にのぼります。治療法として手術やドライニードリング、理学療法などが行われていますが、成功率はまちまちで、特に標準化や投与量の一貫性不足が課題とされています。
本記事では、低強度治療用超音波(LITUS)、集束型体外衝撃波療法(ESWT)、**放射型衝撃波療法(RSWT)**の3つの非侵襲的治療法について、動物モデルと臨床試験の知見を比較し、効果・メカニズム・課題をまとめます。
LITUS(低強度治療用超音波)
特徴
- 強度:3 W/cm²未満(連続またはパルス)
- 機序:温熱効果(血流増加、コラーゲン合成促進)、非温熱効果(細胞膜透過性変化、カルシウム輸送、コラーゲン配向性改善)
- 主に小動物モデルで効果を確認
動物実験
- ラットやウサギのアキレス腱で、引張強度・コラーゲン配列の改善が報告
- ただし周波数(1 MHz vs 3 MHz)や連続/パルスの違いで結果は一貫せず
臨床試験
- 多くのRCTでプラセボと差がない
- 一部で短期的な疼痛改善あり
- 他療法(マイクロ波温熱など)に比べて効果が劣る報告も
👉 まとめ:安全性は高いが、臨床効果は限定的。パラメータ最適化と標準化が課題。
ESWT(集束型体外衝撃波療法)
特徴
- 元々は腎結石破砕用に開発
- 高圧ショック波(50–80 MPa)を焦点に集束
- 痛みが強いため麻酔を併用することもある
動物実験
- 主機序はキャビテーションによる微細損傷 → 修復促進
- 一部は神経刺激による鎮痛作用
臨床試験
- 肩腱症、足底腱膜炎、膝蓋腱症などで痛み軽減効果を確認
- 一部RCTでプラセボとの差なし
- **長期的な痛み軽減効果(最大2年)**を報告する研究も
- 外科手術と同等の効果を示す報告あり
👉 まとめ:疼痛管理に有効。特に石灰沈着性腱症に有望。課題は治療中の痛みと標準化不足。
RSWT(放射型衝撃波療法)
特徴
- 2000年頃に登場した非焦点型の衝撃波治療
- 空気圧で弾丸を加速 → 皮膚表面で圧力波発生
- 浸透深度は3.5 cm程度 → 表在性腱症に適応
- 無麻酔で施術可能
臨床試験
- 成功率は10〜90%と幅広い
- 短期的な疼痛軽減はLITUSより早いが、長期効果はESWTに劣る
- 有害事象:浮腫、神経損傷、足底腱膜炎での足アーチ低下など
👉 まとめ:短期的疼痛改善に有効。表在性腱症に向くが、副作用リスクとエビデンス不足が課題。
総合比較と課題
治療法 | 強み | 弱み | 適応 |
---|---|---|---|
LITUS | 安全性高い、家庭でも利用可 | 臨床効果不安定 | 補助療法、軽度腱障害 |
ESWT | 長期疼痛改善、石灰化病変に有効 | 痛み強い、標準化不足 | 慢性腱症、石灰沈着性腱症 |
RSWT | 無麻酔施術可、短期効果あり | 副作用リスク、深部腱に不向き | 表在性腱症(膝蓋腱、足底腱膜など) |
まとめ
- LITUS:安全だが効果は限定的。
- ESWT:疼痛管理に強く、長期効果が期待できる。
- RSWT:短期効果に優れるが副作用リスクあり。
- 全療法に共通する課題は標準化とパラメータ報告の不足。
👉 今後は音響パラメータ(ピーク圧・強度・波形)の正確な報告が不可欠。これにより、超音波・衝撃波療法が腱障害治療の標準治療の一角を担う可能性があります。