古代ローマで活躍した哲学者エピクテトスは『語録』の中でこう述べています。
「心がけておくべきことが二つある。自分の理性によって選択したこと以外は、善も悪もないということ。そして、外部の物事に対しては、従わせようとするよりも従うほうがよいということだ。」
これは、人生の出来事をどう受け止めるかがすべてであり、外部の出来事そのものは私たちを左右できないという真理を語っています。
アントニー・デ・メロとの不思議な響き合い
時は流れて20世紀。インドのボンベイ(現ムンバイ)で生まれたアントニー・デ・メロというイエズス会の牧師がいました。東西の文化が入り混じる環境に育ち、心理療法士としての訓練まで受けた彼は、東洋と西洋をつなぐ知恵を言葉にしました。
彼の著書『ザ・ウェイ・トゥー・ラブ(The Way to Love)』には、こんな一節があります。
「私の苛立ちの原因は、目の前の相手ではなく自分の中にある。」
この言葉は、まるでエピクテトスの思想を現代の言葉で言い換えたかのようです。
苛立ちや悩みの原因は外ではなく内にある
私たちはしばしば「相手の態度にイライラした」「仕事が私を疲れさせる」と外に原因を探してしまいます。
しかしストア派もデ・メロも共通して語っているのは、悩みの原因は外部ではなく、自分の解釈や思い込みにあるということです。
- 相手の一言に傷つくのは、その言葉をどう受け止めるかを自分が選んだから
- 仕事に疲れるのは、完璧を求める自分の期待が原因だから
- 苛立ちの根本は、世界が自分の思い通りになるはずだという幻想にある
外部を変えようとするより、自分の心の持ち方を変える方がはるかに簡単で、効果的なのです。
エゴを捨て、受け入れる決意
デ・メロが強調したのは「自分が正しい」というエゴを捨てることでした。ストア派もまた、世界の出来事を無理に従わせようとせず、むしろ受け入れて従うほうがよいと説きました。
受け入れるとは、あきらめることではありません。それは「世界はこうあるべきだ」という狭い期待を手放し、現実をありのままに見ることです。そこから初めて、自分にできる最善の行動を選び取れるようになります。
時を超えて受け継がれる知恵
エピクテトスとデ・メロは、時代も文化も異なる存在です。しかし両者に共通するのは、「外部に原因を求めるのではなく、自分の内面を整えることが自由への道だ」という教えです。
人類は古代から現代まで、同じ課題に直面してきました。怒りや苛立ち、不安や嫉妬…。それらを克服する方法として、何度も繰り返し見出されてきたのがこの「普遍の知恵」なのです。
まとめ ― 普遍の知恵を今日に生かす
エピクテトスの言葉も、デ・メロの言葉も、私たちにこう語りかけています。
「外の世界を責めるな。苛立ちの原因はいつも自分の中にある。」
だからこそ、今日からできることはシンプルです。
- 自分の感情を観察する
- 思い込みや期待を手放す
- 現実を受け入れて、最善の選択をする
それだけで、心は軽くなり、自由に生きる力が戻ってきます。
時代を超えて受け継がれてきた知恵は、今を生きる私たちの手の中にもあるのです。