マルクス・アウレリウスは『自省録』の中でこう記しました。
「まずは、知恵や自制や正義や勇気が疑いなく善いものであると心に決める。いったんそう思い込めば、『人生には善いものが多すぎて味わい尽くせぬ』という人々の嘆きは聞くに堪えなくなろう」
この言葉が示しているのは、世間で「善いもの」とされているものと、本当に善いものとの違いです。
世間が「善いもの」と信じているもの
人々が追い求めてやまないものといえば、富・地位・名声でしょう。
「成功すれば幸せになれる」と信じて、懸命に働く人は今も昔も変わりません。
しかし、哲学者セネカは戯曲の中でこう嘆いています。
「金持ちの心の中を皆に見せられたら! その財産がどれだけの不安と恐れを心中にかき立てていることか」
実際、手に入れた金や地位が、望んでいたものとは違う現実を運んでくることは少なくありません。
「バイヤーズ・リモース(買った後の後悔)」は、物質だけでなく、人生の大きな選択にもついてまわるのです。
ストア派が説く「善いもの」
それに対して、ストア派が提唱する「善いもの」は極めてシンプルです。
- 知恵(Sophia) ― 正しく物事を見極める力
- 自制(Sophrosyne) ― 欲望や衝動を抑える力
- 正義(Dikaiosyne) ― 他者や社会に対して公正であること
- 勇気(Andreia) ― 恐れや困難に立ち向かう心
これらは外部の状況に左右されることなく、内面に宿る「徳(Virtue)」として、古代から尊ばれてきました。
シンプルだから裏切らない
富や名声には限りがあり、いつか失われるかもしれません。
一方で、知恵や自制、正義や勇気といった徳は、失うことのない資産です。
- 富を得ても不安は消えない
- 名声を得ても人目を気にする不自由が増える
- 地位を得ても責任に押しつぶされることがある
しかし、知恵や勇気は身につければ裏切らない。
どんな状況にあっても、それが心を支える拠り所になります。
まとめ ― 善き人生はシンプルな徳に根ざす
マルクス・アウレリウスが言うように、本当に善いものは多くありません。
むしろシンプルで、数えるほどしかないのです。
- 知恵
- 自制
- 正義
- 勇気
この4つを人生の軸に据えれば、余計な後悔や迷いから解放され、豊かな心をもって生きられるでしょう。