古代ギリシャの犬儒学派の創始者、シノペのディオゲネスはこう語ったと伝えられています。
「われわれはほとんど価値のないもののために大事なものを売り払う、逆もしかり。」
これは、お金や時間、労力といった人生の資源を「価値のないもの」に差し出してしまう愚かさを批判した言葉です。
市場が示す価値と人間の非合理
現代の市場は一見合理的に見えます。しかし、その価値を決めているのは常に「非合理な人間」です。
例えば、フランスのあるメーカーが販売したダイヤモンドをあしらった豪華なソファは約20万ドル。しかし、暗殺者を雇うには500ドルで済むかもしれない――そんな不条理を思えば、価格が必ずしも真の価値を反映していないことが分かります。
つまり「高いから価値がある」「安いから価値がない」という単純な図式ではなく、その対象が人生にどんな意味を持つかを考えなければならないのです。
ストア派に受け継がれた「アクシア(真の価値)」
ディオゲネスが大切にしたのは「アクシア」、すなわち真の価値です。この思想は後にストア派へと受け継がれ、エピクテトスやマルクス・アウレリウスの哲学に大きな影響を与えました。
- 宝石や豪華な持ち物は墓場まで持っていけない
- 名声や地位も、やがて失われる
- しかし知恵や徳は、人生を導き続ける
この視点を持てば、何に支払うべきかの判断基準が自然と変わってきます。
誤った支払いと正しい支払い
私たちはしばしば、他人の消費行動に影響されます。周囲が高級品にお金を使っていると、それが「普通のこと」「悪くない使い方」と錯覚してしまうのです。
しかしディオゲネスは警告します。本当に価値あるものは、必ず相応の支払いを必要とすると。
- 見栄や快楽のための消費は、一瞬で消える
- 健康、友情、知識、徳といった価値あるものは、努力や時間を差し出すことで得られる
「不必要なものに支払う余裕はない」という言葉は、現代にもそのまま通じます。
今日からできる「価値ある支払い」
では、私たちはどのように「真の価値」に資源を振り向ければよいのでしょうか。
- 時間の使い方を見直す
無駄なスクロールや不毛な愚痴に時間を払っていないか。 - お金の使い方を選ぶ
流行に合わせるより、自分の健康や学びに投資するほうが長く効く。 - 人間関係に注ぐエネルギーを選ぶ
ただ疲弊する関係ではなく、互いを高め合える関係に力を使う。
これらはすべて「価値ある支払い」と言えるでしょう。
まとめ ― 人生の資源をどこに使うか
ディオゲネスが示したのは、「ほとんど価値のないもの」に人生の資源を売り渡すな、という警告でした。
市場の値札や世間の基準ではなく、自分の理性と哲学に基づいて「価値あるもの」を見極め、そこに支払う。そうすれば、人生はより豊かで実りあるものになります。
不必要なものを手放し、価値あるものに支払おう。それが賢明な生き方なのです。