『消費税の正体と賃上げ阻害の構造を解く』
消費税の議論が大きく動いた瞬間
消費税の本質を問う国会質疑が、予想を超える反響を呼んでいる。安藤議員が片山財務大臣に対して行った質問は、消費税とは誰が負担しているのか、どのように仕組みが成り立っているのかを明確に浮かび上がらせた。これまで当然とされてきた「消費者が払う税」というイメージが揺らぎ、法的な構造を見つめ直すきっかけとなっている。
この質疑が注目されたのは、財務大臣が法律に基づき「納税義務者は事業者である」と明確に認めた点にある。
法律が示す“消費税の正体”
私たちが日々の買い物で支払っているように見える消費税。しかし消費税法には「消費者」という言葉は一切出てこない。納税義務者として規定されているのはあくまで事業者であり、法的構造は“売上に対する税”として設計されている。
財務省は「最終的な負担は消費者に転嫁される」という前提で説明してきたが、それはあくまで経済的効果の話であって、法律上の義務とは別の次元にある。安藤議員が「法律だけで答えてください」と迫ったことで、大臣は「消費者が納税義務者ではない」と明言するほかなかった。
この一点だけでも、消費税に対する国民の理解とは大きな乖離があるといえる。
消費税が賃上げを妨げる理由
消費税の議論が本質的になるのは、企業の実態と結びついたときだ。消費税は売上の10%を原則として徴収し、インボイスのある経費だけを差し引く方式で計算される。
問題は、賃金が“インボイスのない経費”であるという点だ。法人税であれば、賃上げは経費増となり税負担が軽くなる。しかし消費税では賃金を控除できず、売上からまず税負担が発生する。
つまり、企業は「賃上げしたい」と思っても、その前に消費税の納税分が確保できなければ動けない。これが消費税が“賃上げ妨害税”と言われる理由であり、中小企業が値上げに踏み切れない現状をさらに厳しくしている。
“価格に10%が乗る”という幻想
多くの人が「価格に利益をのせ、そこから消費税10%が加算されて販売価格が決まる」というイメージを持っている。
しかし現実には、赤字企業や低賃金労働者が多数存在し、適正な利益を確保できない事業者が山ほどある。利益が出ていない企業が消費税分を上乗せできるはずもなく、実際には価格転嫁が行えないケースが圧倒的だ。
その結果、赤字企業であっても売上に対して消費税が課され、納税能力を超えた負担が発生する。納税の原則である「担税力」すら損なう構造となっている。
食料品ゼロ税率の落とし穴
さらに議論は、食料品の消費税をゼロにした場合の影響に及ぶ。
一見、価格がそのまま8%下がるように思えるが、現実にはそう単純ではない。仕入れの段階で消費税がゼロになれば、飲食店は仕入税額控除が使えず、その分だけ税負担が増える。
つまり、ゼロ税率が逆に増税として作用する可能性がある。価格が下がらない一方で納税額だけが増えれば、外食産業を中心に経営環境はさらに悪化する。この構造を理解していなければ、政策判断は容易に誤る。
最終的に求められる“本質の理解”
安藤議員は、消費税が売上税であり、転嫁ができない企業に深い傷を与えている現実を重ねて指摘した。
“消費税は消費者が払うもの”という思い込みを外せば、賃上げが進まない理由、物価が上がらない理由、事業者が疲弊する理由が一本の線でつながっていく。
消費税の構造を理解しないまま議論が行われれば、政策は的を外し続ける。今回の質疑が投げかけた意味は、消費税という制度の根本に立ち返ることの重要性にあるといえる。
